本文へ

 

空間データの品質

計画機関の発注時における「品質要件」の記載状況と課題

自治体が地形図等のDMデータを整備・更新する場合は、一般的に特記仕様書、製品仕様書、品質評価手順書等を条件として測量企業に委託することになっています。

特記仕様書は、整備・更新の方法について記載します。製品仕様書は、適用範囲、データ製品識別、応用スキーマ、参照系、データ品質、メタデータ、描画のための辞書とカタログ等を記載します。品質評価手順書は品質検査の方法について記載します。品質要求を表示するものとして、製品仕様には、国土地理院が例示している「地図情報レベル2500データ作成の製品仕様書(案)」がありますし、品質手順書には、JPGISの「品質の要求,評価及び報告のための規則」等があります。

最近、GISのコンサルタントをしていて、測量企業の社内検査も、第三者機関の検査も合格の書類はあるのですが、何を根拠に合格としているのか理解に苦しむことがあります。

そこで、2010年9月に4社の測量機関にお願いして、最近、各社が受託した20自治体の合計80自治体の発注条件についてアンケート調査を行いました。その結果を表1に示します。表のA,B社は大手測量会社で、C,D社は地方の測量会社です。

表1 アンケート結果

調査項目 A社 B社 C社 D社 平均
品質要件の適合品質水準の表示がある 10.0% 5.0% 0.0% 0.0% 3.8%
品質評価手順書がある 10.0% 5.0% 0.0% 0.0% 3.8%
交差の閾値を設定している 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
社内検査交差閾値は幾つか 0.0m 0.0m 0.002m 0.0m 0.0m
どこが検定図郭しているか 計画機関 計画機関 計画機関 計画機関  

 

■発注時に品質要件が明確化されているか

発注時に特記仕様書、製品仕様書等に品質要件の表示があるかの問いには、平均で3.8%となっています。また、明示がない場合の対応としては、自治体と受託者の協議によって決めると回答しています。

公共測量作業規程の準則は、5条で「計画機関は、得ようとする測量成果の種類、内容、構造、品質等を示す仕様書(以下「製品仕様書」という。)を定めなければならない。」と規定しています。

空間データの品質を保証するには、データ品質要素及びデータ品質副要素の検査種類(全数、抜取)と適合品質水準の明示が必要です。自治体の方々も発注する責任があるのですから、品質の最も根幹である検査種類と適合水準を明示して欲しいものです。

■品質評価手順書は提供されているか

品質評価手順書の整備は、平均で3.8%となっています。

公共測量作業規程の準則は、44条で「「品質評価」とは、基準点測量成果について、製品仕様書が規定するデータ品質を満足しているか評価する作業をいう。作業機関は、品質評価手順に基づき品質評価を実施するものとする。」と規定しています。

品質評価手順書は、主として検査の方法とエラーの定義を記載します。特に、エラーの定義が異なると、ある現象が自治体にとってエラーだと考えて も、受託者にとってエラーでないと主張した場合のトラブルの解決方法がありません。従って、品質評価手順書は、トラブルを起こさないためのバイブルとなる ものです。トラブルを未然に防ぐためにもぜひ整備して欲しいものです。 

■エラーの閾値は明示されているか

エラーの中でも最も数の多いのが交差エラーですが、交差がどの程度重なったらエラーとするかの閾値の値が明示されているかの質問については、全ての自治体が指定されていないと回答しています。

エラーの閾値が表示されていないことは、あえて、閾値が0mを当然と考えて表示していないのでしょうか。しかし、閾値0mは次のような問題を起こします。

■閾値0は適切か

受託者が交差の閾値を何mに設定して検査をしているかの質問に対しては、4社全てが0mと回答しています。しかし、閾値が0mとしている場合には、次のような問題が起こります。

赤い線で描かれたグリッドをデータの最小桁とすると、線分ABと線分CDの交点Dは、図1の様にしたいのですが、残念ながらそうはなりません。 実際のデータのD点はa,b,c,dのいずれかになります。a,c,dにある場合には、アンダーシュートとなります。また、bの場合は、オーバーシュート となります。線分ABと線分CDの交点が赤のグリッド上にあるようにするためには、図2のように、線分ABにD点と同一点であるp点を挿入する必要がある ことはよく知られています。(図2の場合D=c=p)

しかし、線分ABの中間点に交差する全ての交点に座標を挿入することは、作業量の増大や、データ容量の増大につながりあまり採用されていませ ん。従って、線分ABの中間点に交差する場合は、その交点に点を挿入しない限り、オーバーシュートかアンダーシュートが発生することを認識していただきたい。

GIS-04-01.JPG

図1 そうでありたい例 図2 交点に座標を挿入した例

従って、品質検査プログラムで交差を0mと設定した場合には、線分Cb点は交差エラーとなり、線分Ca,Cc,Cdも交差エラーとなります。但し、困ったことに、アンダーシュートをエラーとチェックしていない品質検査プログラムはエラーとなりません。

また、交差の閾値を0mと設定すると、境界を共有する線または面は全て、エラーとして抽出されます。しかし、同一線上にある点は、エラーとした くないので、これを取り除く必要があります。このため、受託者は目視でチェックして、OKエラーとしてエラーとしないことにしています。このようなエラー は、1図郭で数百点にも上ることがあります。多くの自治体は、受託者から「検査は合格です。OKエラーはこれだけあります。」と言われてそのまま受け取っ てしまいます。しかし、このOKエラーが正しいか否かによって合格が不合格に変わってしまう危険性を含んでいます。OKエラーを0にすることはできません が、少なくするには、2つの方法が考えられます。

  1. 交差する双方の線分に交点の座標を挿入する。
  2. 交差の閾値を設定する。

交点に座標を挿入する方法は、交差エラーの点からみれば合理的ですが、空間データの座標点数が増大して、レスポンス、費用の点で課題が残りま す。一方、仕様書に交差の閾値を明示して閾値以上の交差はエラーとする方法は、自治体、受託者にとって無駄な目視検査を行わずに済むだけ合理化できると考 えています。ちなみに基盤図情報では、近接閾値を0.01m、オーバーラップ閾値を0.05mとしています。

ぜひ、自治体の皆様も、この閾値を特記仕様書、品質評価手順書等で規定することをお勧めいたします。

■作業機関が検査図郭を検査機関に持って行くことが問題か

調査の結果では、検査は、空間データを整備した2%程度を検定に出していることが分かりました。そして、その検査を行う図郭の選択は、全て計画機関が行っていると回答しています。

この結果は、大多数の方々にとって何ら不思議さを感ずるものでないかも知れませんが、次の課題を含んでいます。

  1. 検査図郭の選定は自治体であっても、大方の場合、検査機関に持っていくのは受託者で、その間に何が起きているか分かりません。筆者なら、検査機関 に持っていく前にこの図郭を念入りに再度検査し、修正して1回で合格するようにします。このような操作が行われていないという証明はありません。
  2. 検査機関は、整備・更新領域全体を知る立場にないので、当然のことながら検査した範囲の品質を保証することになります。(注目すべきは検査機関の証明は、検査した範囲が合格と明記されていて、整備・更新した全域の合格ではないということです。)

多くの自治体の皆様は、検査機関の検査結果が合格であることを、今回発注した全域の空間データの品質が、適用水準に合格した品質のものであると 信じています。しかし、検査機関が発行した合格書には、検査した図郭に対して合格と書かれています。ここに大きな誤解を生じています。

自治体及び国土地理院の皆様は、2%が品質の適合範囲を満たしていればよいのでしょうか。そうではないはずです。危険率はあるものの、統計学的に2%の抜取検査を行うことによって整備・更新した範囲全体の品質保証を求めているはずであると考えています。

統計的に整備・更新した空間データが適合水準に満たすためには、次のように行う必要があります。

  1. 特記仕様書に検査機関に検査してもらう全域に対する検査比率を明記する。
  2. 自治体は、整備・更新した全域のデータを検査機関に提出する。
  3. 検査機関は、特記仕様書に基づき、検査する領域を無作為に抽出する。
  4. 検査を行う。

このようにすれば、検査機関も、統計学的に全域から無作為に抽出した検査結果を全域の品質保証として表示することが出来ます。

自治体の皆様には、ぜひ、このように特記仕様書に記載していただきたい。また、検査機関の皆様は、特記仕様書に基づき、無作為に検査する領域を 抽出して検査することによって、統計学的な全域の保証をしていただきたい。そして、国土地理院の方々も、測量成果の受領に当たって、2%の合格書で全体が 合格であるかのごとく判断しないで欲しいと願うものです。