第11回 統合型GISへの歩み(10)
作業規程準則の位置正確度
1. はじめに
筆者は、若いころはエレクトロニクスの技術者として、デジタル技術の開発に携わった。最初は真空管で、次にトランジェスター、IC、LSIで工業分野の制御システムを設計・製造・メンテナンス等を行ってきた。また、変わったところでは、医学分野で人間の細胞レベルで正常細胞と異常(病変)細胞かを統計的に判断する形態計測システムの開発と販売にも携わってきた。
この経験から申し上げると、エレクトロニクスの発展の歴史は、デジタル化、高速化、高精度化、軽薄短小の歴史であった。それは、ニーズに対して問題点を把握し、その解決のために実験を行い、そのデータを取り、更に改良するという歴史であった。
今から15年前にひょんなことから、空間データに係ってきたが、最初に感じたことは、空間データを作成する場合、測量機器メーカがデジタル化、高精度化、省力機器化、低コスト化を行って新製品を出してきたが、その製品に公共測量作業規程が対応していないのではないかという疑問を感じる。そこで、今回はこの疑問と対策について述べることとする。
2. 作業規程準則の位置正確度
2.1. 新規測量と修正測量の位置正確度
公共測量作業規程の準則の数値地形データファイルの位置正確度は80条に、修正測量の位置正確度は221条に次のように定められている。また、基盤地図情報の位置正確度もDMファイルから作成されていることから修正測量の数値が適用されている。
| 地図情報レベル | 水平位置の標準偏差 | 標高点の標準偏差 | 等高線の標準偏差 |
| 500 | 0.25m以内 | 0.25m以内 | 0.50m以内 |
| 1000 | 0.70m以内 | 0.33m以内 | 0.50m以内 |
| 2500 | 1.75m以内 | 0.66m以内 | 1.00m以内 |
| 5000 | 3.50m以内 | 1.66m以内 | 2.50m以内 |
| 10000 | 7.00m以内 | 3.33m以内 | 5.00m以内 |
表1新規整備における位置正確度
| 地図情報レベル | 水平位置の標準偏差 | 標高点の標準偏差 | 等高線の標準偏差 |
| 500 | 0.35m以内 | 0.33m以内 | 0.50m以内 |
| 1000 | 1.00m以内 | 0.50m以内 | 0.50m以内 |
| 2500 | 2.50m以内 | 1.00m以内 | 1.00m以内 |
| 5000 | 5.00m以内 | 2.50m以内 | 2.50m以内 |
| 10000 | 10.00m以内 | 5.00m以内 | 5.00m以内 |
表2 修正測量における位置正確度
また、121条の航空機の性能については、フイルムカメラと、デジタルカメラでの撮影が規定されている。フイルムカメラを使用する場合は、GPS/IMU装置を用いた撮影とGPS/IMU装置を用いない撮影でも良いことになっている。また、デジタルカメラを使用する場合には、GPS/IMU装置を用いた撮影が必須となっている。
筆者は、ここで、次の疑問を感じた。
(1) 空間データを更新するとなぜ位置正確度が劣化するのか。
(2) フイルムカメラとデジタルカメラで保証する位置正確度は同じのはなぜか。
3. 調査と結果
3.1. 更新による精度の劣化
更新によって位置正確度が劣化していくとすれば、劣化する要因によっては、更新数量で異ならなければならないし、また、回数によっても異なる場合も生じてくる。しかし、準則(旧の公共測量作業規程でも更新の場合のレベル2,500の位置正確度は2.5Mと記載されている。)では、更新回数及び更新数量については何も記載されていない。全く不可解である。
そこで、はたして現在の機器では、更新時における位置正確度が2.5Mしか、精度維持ができないものなのか。実際の品質検査の結果を調査した。図3は地形図の更新を行うために、デジタルカメラで撮影をした画像を元に、地理情報レベル2,500で作成した道路縁のデータを現地でGPS測量した結果を正として、誤差を計算したものである。但し、残念ながら、フイルムカメラで撮影した画像を元に空間データを作成したデータを入手することはできなかった。
| 計画機関 | 計測点数 | 最大誤数 | 最小誤数 | 平均 | 標準誤差 |
| Ma市 | 26 | 0.543 | 0.034 | 0.177 | 0.133 |
| Ta市 | 20 | 2.882 | 0.147 | 1.027 | 0.703 |
| Gu市 | 20 | 2.340 | 0.248 | 1.027 | 0.620 |
| Gi市 | 20 | 1.076 | 0.005 | 0.543 | 0.312 |
| Ka市 | 20 | 1.526 | 0.008 | 0.392 | 0.352 |
| Ya市 | 20 | 1.924 | 0.061 | 0.700 | 0.545 |
図3 入手した位置正確度 (誤差及び平均の単位M)
この結果を見る限り、少なくとも、デジタルカメラで撮影した画像を元に数値化した地形図の要求位置正確度は、2.5Mにしなくても、1.75Mよりはるかに良い数値が出ていることがわかる。
そこで、更新における位置正確度2.5Mとした理論的根拠について、測量の専門家の方々に聞取り調査を行った。この調査は、困難を極めた。その理由は、更新時の位置正確度が2.5Mであることを知らないか、あるいは、改訂の際に変更することをおざなりにしたと言う人が大半で、理論的根拠を説明できる人になかなか行き当らなかった。しかし、ついにたどり着いた。更新時における2.5Mの理由を次のように説明を受けた。
「かって昔、空間データ更新のために写真撮影を行う場合に、対空標識を設置せずに位置調整の座標を初期整備の写真の位置座標を測り、その座標を更新した写真の同じ位置の座標と見なして計算した時期があった。このため、位置正確度2.5Mを維持することが限界であった。作業規程の改訂のたびに話題となることがあるが、精度を上げることが規制を強めるという発言で変更されずに、その数値がずっと残り現在にいたっている。」とのことであった。
3.2. フイルムカメラとデジタルカメラで位置正確度が同じのはなぜか
準則では、撮影に使用するカメラの種類として、フイルムカメラでGPS/IMU装置を用いた撮影とGPS/IMU装置を用いない撮影でも良いことになっている。また、デジタルカメラを使用する場合には、GPS/IMU装置を用いた撮影が必須となっている。しかし、カメラの装置の性能に係らず、新規整備の位置正確度が全く同じで1.75M、更新の位置正確度が2.5Mというのは原理的に見てもおかしい。ということについて専門家に意見徴収した。
専門家も筆者の意見に賛成で、撮影の種類を3種類規定するならば、それぞれの機器の場合の位置正確度を明記すべきであるという筆者の意見に賛成していただけた。
ではなぜ、このように3種類の撮影タイプを規定していながら、使用する機器によって位置正確度を規定しない理由については、前項と同じく、精度を上げることが規制を強めることとなるので規定の変更に強い抵抗を示しているとのことであった。
4. 考察
筆者は、2000年すぎ頃までGPS/IMU装置なしのフイルムカメラで撮影した場合に、空中三角測量で精度内に入らないと、その対空標識を取り除いて計算させ、表面上では入っていることを日常的に行われたことを見聞きしている。しかし、このような時代から、機器そのものが進歩しているにも係らず、要求位置正確度が変わらないということ自体が不可思議である。
空間データの更新データの位置正確度の2.5Mの根拠は、理論的な問題ではなく、現在の公共測量作業規程の準則に基づかない方法で行った場合の許容位置性正確度であることが、かなりの正確度で推定できる。また、現実の空間データのサンプリングでも2.5Mよりかなり良い数値で納品されていることがわかった。しかし、このサンプルデータは、筆者の個人的に入手できるデータだけなので、2.5Mの根拠を示すためにも統計学的に調査を行う必要がある。
国土地理院は、測量成果の提出を受けて、承認する権限をお持ちであるから、測量成果の空間データの位置正確度の精度と準則で規定している精度との関係を明らかににする必要があると考えている。そして、現行の仕様で作成した場合の位置正確度の標準偏差、分散、最大誤差、最小誤差と誤差の原因と対策を明らかにすることが必要である。
空間データの品質シリーズの位置正確度の項でも書いたが、撮影カメラにしても、図化機にしても日進月歩でより省力化、高精度化している。そうであるにもかかわらず、筆者は30年も要求品質が変わらないという例を他には知らない。もし、撮影カメラや図化機が進化しても取得した新規整備及び更新した空間データの品質が30年も昔と変わらないと言うならば、ぜひ聞きたいものである。
また、公共測量作業規程の準則に記載されているGPS/IMU装置を用いないフイルムカメラの撮影について大手の測量業界の皆様に使用状況を聞いたところでは、現在ではほとんどがデジタルカメラを使用して撮影している。使用した場合、フイルムカメラは作業工数が増大してコストが上がってしまうし、精度も出ないので現在ではほとんど使われていないとのことであった。このような状況を考えると、最低限、公共測量作業規程の準則は、それぞれのカメラ方式に対して位置正確度を表示すべきであると考える。更に現在の写真撮影のカメラがデジタルカメラ方式である現状から、デジタルカメラ方式のみに限定しても良いのではないかと考える。
いずれにしても、空間データの作成に求められているものは、品質の向上とコスト削減であることから、所管官庁、業界を含めてもう一度準則を見直して欲しいものである。














