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統合型GIS

第11回 統合型GISへの歩み(10)

作業規程準則の位置正確度

 

1. はじめに

筆者は、若いころはエレクトロニクスの技術者として、デジタル技術の開発に携わった。最初は真空管で、次にトランジェスター、IC、LSIで工業分野の制御システムを設計・製造・メンテナンス等を行ってきた。また、変わったところでは、医学分野で人間の細胞レベルで正常細胞と異常(病変)細胞かを統計的に判断する形態計測システムの開発と販売にも携わってきた。
この経験から申し上げると、エレクトロニクスの発展の歴史は、デジタル化、高速化、高精度化、軽薄短小の歴史であった。それは、ニーズに対して問題点を把握し、その解決のために実験を行い、そのデータを取り、更に改良するという歴史であった。
今から15年前にひょんなことから、空間データに係ってきたが、最初に感じたことは、空間データを作成する場合、測量機器メーカがデジタル化、高精度化、省力機器化、低コスト化を行って新製品を出してきたが、その製品に公共測量作業規程が対応していないのではないかという疑問を感じる。そこで、今回はこの疑問と対策について述べることとする。

2. 作業規程準則の位置正確度

2.1. 新規測量と修正測量の位置正確度

公共測量作業規程の準則の数値地形データファイルの位置正確度は80条に、修正測量の位置正確度は221条に次のように定められている。また、基盤地図情報の位置正確度もDMファイルから作成されていることから修正測量の数値が適用されている。

地図情報レベル 水平位置の標準偏差 標高点の標準偏差 等高線の標準偏差
500 0.25m以内 0.25m以内 0.50m以内
1000 0.70m以内 0.33m以内 0.50m以内
2500 1.75m以内 0.66m以内 1.00m以内
5000 3.50m以内 1.66m以内 2.50m以内
10000 7.00m以内 3.33m以内 5.00m以内

表1新規整備における位置正確度

 

地図情報レベル 水平位置の標準偏差 標高点の標準偏差 等高線の標準偏差
500 0.35m以内 0.33m以内 0.50m以内
1000 1.00m以内 0.50m以内 0.50m以内
2500 2.50m以内 1.00m以内 1.00m以内
5000 5.00m以内 2.50m以内 2.50m以内
10000 10.00m以内 5.00m以内 5.00m以内

表2 修正測量における位置正確度

また、121条の航空機の性能については、フイルムカメラと、デジタルカメラでの撮影が規定されている。フイルムカメラを使用する場合は、GPS/IMU装置を用いた撮影とGPS/IMU装置を用いない撮影でも良いことになっている。また、デジタルカメラを使用する場合には、GPS/IMU装置を用いた撮影が必須となっている。
筆者は、ここで、次の疑問を感じた。

(1) 空間データを更新するとなぜ位置正確度が劣化するのか。
(2) フイルムカメラとデジタルカメラで保証する位置正確度は同じのはなぜか。

3. 調査と結果

3.1. 更新による精度の劣化

更新によって位置正確度が劣化していくとすれば、劣化する要因によっては、更新数量で異ならなければならないし、また、回数によっても異なる場合も生じてくる。しかし、準則(旧の公共測量作業規程でも更新の場合のレベル2,500の位置正確度は2.5Mと記載されている。)では、更新回数及び更新数量については何も記載されていない。全く不可解である。
そこで、はたして現在の機器では、更新時における位置正確度が2.5Mしか、精度維持ができないものなのか。実際の品質検査の結果を調査した。図3は地形図の更新を行うために、デジタルカメラで撮影をした画像を元に、地理情報レベル2,500で作成した道路縁のデータを現地でGPS測量した結果を正として、誤差を計算したものである。但し、残念ながら、フイルムカメラで撮影した画像を元に空間データを作成したデータを入手することはできなかった。

 

計画機関 計測点数 最大誤数 最小誤数 平均 標準誤差
Ma市 26 0.543 0.034 0.177 0.133
Ta市 20 2.882 0.147 1.027 0.703
Gu市 20 2.340 0.248 1.027 0.620
Gi市 20 1.076 0.005 0.543 0.312
Ka市 20 1.526 0.008 0.392 0.352
Ya市 20 1.924 0.061 0.700 0.545

図3 入手した位置正確度 (誤差及び平均の単位M)

この結果を見る限り、少なくとも、デジタルカメラで撮影した画像を元に数値化した地形図の要求位置正確度は、2.5Mにしなくても、1.75Mよりはるかに良い数値が出ていることがわかる。
そこで、更新における位置正確度2.5Mとした理論的根拠について、測量の専門家の方々に聞取り調査を行った。この調査は、困難を極めた。その理由は、更新時の位置正確度が2.5Mであることを知らないか、あるいは、改訂の際に変更することをおざなりにしたと言う人が大半で、理論的根拠を説明できる人になかなか行き当らなかった。しかし、ついにたどり着いた。更新時における2.5Mの理由を次のように説明を受けた。
「かって昔、空間データ更新のために写真撮影を行う場合に、対空標識を設置せずに位置調整の座標を初期整備の写真の位置座標を測り、その座標を更新した写真の同じ位置の座標と見なして計算した時期があった。このため、位置正確度2.5Mを維持することが限界であった。作業規程の改訂のたびに話題となることがあるが、精度を上げることが規制を強めるという発言で変更されずに、その数値がずっと残り現在にいたっている。」とのことであった。

3.2. フイルムカメラとデジタルカメラで位置正確度が同じのはなぜか

準則では、撮影に使用するカメラの種類として、フイルムカメラでGPS/IMU装置を用いた撮影とGPS/IMU装置を用いない撮影でも良いことになっている。また、デジタルカメラを使用する場合には、GPS/IMU装置を用いた撮影が必須となっている。しかし、カメラの装置の性能に係らず、新規整備の位置正確度が全く同じで1.75M、更新の位置正確度が2.5Mというのは原理的に見てもおかしい。ということについて専門家に意見徴収した。
専門家も筆者の意見に賛成で、撮影の種類を3種類規定するならば、それぞれの機器の場合の位置正確度を明記すべきであるという筆者の意見に賛成していただけた。
ではなぜ、このように3種類の撮影タイプを規定していながら、使用する機器によって位置正確度を規定しない理由については、前項と同じく、精度を上げることが規制を強めることとなるので規定の変更に強い抵抗を示しているとのことであった。

4. 考察

筆者は、2000年すぎ頃までGPS/IMU装置なしのフイルムカメラで撮影した場合に、空中三角測量で精度内に入らないと、その対空標識を取り除いて計算させ、表面上では入っていることを日常的に行われたことを見聞きしている。しかし、このような時代から、機器そのものが進歩しているにも係らず、要求位置正確度が変わらないということ自体が不可思議である。
空間データの更新データの位置正確度の2.5Mの根拠は、理論的な問題ではなく、現在の公共測量作業規程の準則に基づかない方法で行った場合の許容位置性正確度であることが、かなりの正確度で推定できる。また、現実の空間データのサンプリングでも2.5Mよりかなり良い数値で納品されていることがわかった。しかし、このサンプルデータは、筆者の個人的に入手できるデータだけなので、2.5Mの根拠を示すためにも統計学的に調査を行う必要がある。
国土地理院は、測量成果の提出を受けて、承認する権限をお持ちであるから、測量成果の空間データの位置正確度の精度と準則で規定している精度との関係を明らかににする必要があると考えている。そして、現行の仕様で作成した場合の位置正確度の標準偏差、分散、最大誤差、最小誤差と誤差の原因と対策を明らかにすることが必要である。
空間データの品質シリーズの位置正確度の項でも書いたが、撮影カメラにしても、図化機にしても日進月歩でより省力化、高精度化している。そうであるにもかかわらず、筆者は30年も要求品質が変わらないという例を他には知らない。もし、撮影カメラや図化機が進化しても取得した新規整備及び更新した空間データの品質が30年も昔と変わらないと言うならば、ぜひ聞きたいものである。
また、公共測量作業規程の準則に記載されているGPS/IMU装置を用いないフイルムカメラの撮影について大手の測量業界の皆様に使用状況を聞いたところでは、現在ではほとんどがデジタルカメラを使用して撮影している。使用した場合、フイルムカメラは作業工数が増大してコストが上がってしまうし、精度も出ないので現在ではほとんど使われていないとのことであった。このような状況を考えると、最低限、公共測量作業規程の準則は、それぞれのカメラ方式に対して位置正確度を表示すべきであると考える。更に現在の写真撮影のカメラがデジタルカメラ方式である現状から、デジタルカメラ方式のみに限定しても良いのではないかと考える。
いずれにしても、空間データの作成に求められているものは、品質の向上とコスト削減であることから、所管官庁、業界を含めてもう一度準則を見直して欲しいものである。

第10回 統合型GISへの歩み(9)

広域連携

1. 地図整備の現状

地図整備の重複は市町村内における重複について第9回で説明してきたが、もうひとつ見逃してならない重複が行われている。それは、市町村と都道府県、国、公団団体間の重複整備の課題である。
地図整備は、主管部門が主題図を作成するため地形地物と主題地物を作成している。管理主管部門は、主として市町村、県、国、公団、団体等がある。ここで、注目しなければならないことは、必ず主題地物が地域的に市町村の領域に存在していると言うことである。

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図1市町村内に存在する主題図の管理主管部門

 

例えば、道路は、市町村道、県道、国道(直轄道路、補助国道)、高速道路、農道等があり、河川についても、1級河川、2級河川、準用河川、普通河川があり、市町村、県、国の管理主管部門が整備更新を行っている。また、森林地域、砂防地域等も同様にそれぞれの管理主管(特定市、県、国、公団)が作成している。しかし、これらの地物は、必ずどこかの市町村に帰属しているという事実である。従って、このような主題又は主題の背景となる地形地物を市町村とそれぞれの管理主管(特定市、県、国、公団)が重複して作成しているという現実に注目すべきである。
国土交通省の土地利用基本計画によると、都市地域が17.4%、農業地域が29.5%、森林地域が43.5%、自然公園地域が9.3%、自然保全地域0.2%と報告している。また、林業白書によると、森林の管理者は、国有林が30.7%、公有林が11.3%、民有林が58.0%と報告している。また、森林地域に対して都道府県及び国は、森林基本図を作成している。そして、農業地域に対しても、農水省は補助事業によって全国の土地改良事業団連合会が都道府県別に美土里ネットと呼ばれる農業GISを整備している。

分類 面積(千ha) 比率
都市地域 10,1134/td> 17.4%
農業地域 27,230 29.5%
森林地域 25,397 43.6%
自然公園地域 5,440 9.3%
自然保護地域 105 0.2%
分類 面積(千ha) 比率
国有林 7686 30.7%
公有林 2830 11.3%
私有林 14535 58.0%

表1 全国の土地利用による5地域の面積(国土交通省)と森林の種類(H22年林業白書)

 

国土交通省道路局によると、H21年現在の道路の管理主管別比率は高速道路が0.6%、国道直轄区間が1.9%、国道直轄区間外2.6%、都道府県道路10.7%、市町村道路が84.1%となっている。また、国土交通書河川局によるとH22年現在の河川の管理主管別比率は、1級河川直轄管理区間が7.4%、1級河川都道府県管理区間が53.7%、2級河川都道府県管理が25.1%、市町村が管理している準用河川が13.9%となっている。

分類 実延長(k㎡) 比率
高速自動車国道 7.642 0.6%
国道直轄区間 22,787 1.9%
国道直轄区間外 31,949 2.6%
都道府県道 129,377 10.7%
市町村道 1,016,058 84.1%
分類 実延長(km) 比率
1級河川直轄管理区間 10,566 7.4%
1級河川都道府県管理区間 76,986 53.7%
2級河川都道府県管理 35,917 25.1%
準用河川 19,891 13.9%

表2 全国の道路と河川の管理分担とその延長距離

 

道路及び河川については、それぞれの管理者が道路台帳、河川台帳を作成している。また、砂防関係では、急傾斜地崩壊地域が507K㎡、地滑り防止区域3,327K㎡、砂防指定地8,861K㎡に対し地図情報レベル2500で整備されている。
このように、市町村の領域内に異なる行政機関が政令や条例に基づき、それぞれの主管業務のために空間データを整備していることがわかる。これらの主管業務で作られる空間データは、市町村が作成する地形図とは独立して作成するため重複整備とそれぞれの空間データとの非整合性を生ずる要因となっている。このため、重複整備をできるだけ削減するためには、市町村内における空間データにおける統合化に留まらず、広域で統合する広域連携が合理的であると考えられている。

 

2. 広域連携

空間データの整備主管は国、都道府県、市町村がそれぞれの業務に応じて整備している現状を踏まえて、重複整備の削減と管理主管ごとの整備による空間データの非整合性を解決するための整備方法を提案する。

 

2.1. 広域連携の在り方

市町村の領域に都道府県及び国がそれぞれの管理主管となる主題図を作成している現状から、これらの空間データを前回述べたストックヤード(広域マスター空間データ)に入れることによって重複整備の削減と整合性を保つことができる。
このような課題を解決するためには、図2に示すように、市町村と市町村の領域に存在する都道府県、省庁、公団等団体の空間データは、広域マスター空間データとして整備する。(この広域マスター空間データを維持管理するための組織が必要である)市町村マスター空間データ、都道府県空間データ、省庁空間データ、公団団体等空間データの更新が行われた場合には、広域マスター空間データに更新データを提供する。広域マスター空間データを維持管理する組織は、更新データに基づき全体調整を行った後に、各提供機関に配布する。

図2広域マスター空間データの流れ

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広域マスター空間データを管理する単位は、表1,2に示すように県と市町村で森林地域の69.3%、道路の97.4%、河川の72.7%、砂防関係の大半は県が作成している。国はこの県単位の広域マスター空間データを支援するために、国有林データ、高速自動車国道データ、国道直轄区間データ、1級河川直轄区間データ、砂防直轄データ等省庁が管理しているデータを提供する役割に徹することが合理的であり、それを支援することが重要である。国土の30%程度の面積しか整備更新していない機関が、国土全体を整備するとすれば、国と地方公共団体と二重の空間データを作ることになり合理的とは言えない。

 

2.2. 広域統合型GISの課題

紙で作成した都市計画図、道路台帳、森林基本図等の主題図は、紙という制限の中でその主題目的を果たすために作成されたものである。ところが、GISは、紙図では為し得なかった縮尺という概念がなくしてしまった。そして、主題図にない空間データでも座標系さえあっていれば、簡単に重ねて見ることができる。GISの特徴をほとんどのユーザが理解していても、空間データの整備方法が紙図を作成すると同じ整備方法で行っているところに問題がある。現在の整備方法は単にアナログで作成していた紙図をデジタルで作成してGISに搭載しているだけである。ツールが変わればそのツールであるGISの特徴を生かした整備方法に発想の転換を行うことが必要である。
本来、紙図からGISに転換した1970年代から80年代にかけて空間データ整備の在り方について検討すべきであった。しかし、UIS,UISⅡにおいても、空間データの整備は関連業務単位に必要な地物を整備することに主眼が置かれ、広域マスター空間データ(ストックヤード)を作成するという概念までは行き届かなかった。
90年代に入り、個別業務GISの導入が進み、市町村の財務担当は、GIS導入のための投資額が毎年増加することに悲鳴を上げ始めた。ようやく統合型GISで広域連携のテーマとして取り上げられたが、それから10年を経ても数県が取り組んでいるにすぎない。市町村、都道府県、国という壁は予想以上に高いようである。
筆者はこの15年空間データの統合化に向けて数多くの自治体のGISのコンサルタント行ってきた。その統合化の最大の難問は、主題図がその部門の業務の維持管理を行うものでそこで作成した空間データは自部門のものであるという概念から抜け切れていない。従って、主題図の目的外利用をできるだけ拒むという習慣が持続している。苦労して予算化して整備した主題図をなぜ他部門の目的のために提供しなければならないのか、まして、“自部門が必要のない地物、属性を他部門のために作らなければならないのか”という意識には強いものがある。
昨今、自治体も財務当局から半ば強制的に予算の削減を申し渡されている。そこで、これまで管理責任部門ごとに作成していた個別空間データを、市町村の領域で作成している全て(国、都道府県、市町村、公団等)の部門が分担して整備するという発想の転換によってコストダウンが可能であることを認識すべきである。そして、財政当局も広域マスター空間データという整備・更新方法が予算の無駄を削減できるということを理解する必要がある。

第9回 統合型GISへの歩み(8)

空間データの整備と更新の課題解決方法

1. 統合型GISの課題

統合型GISの目的は、多額な費用を必要とする空間データ整備を合理的に行うことと、整備した空間データの閲覧権限を持った人々がGISの最新の情報を共有することにある。そこで今回は、空間データの整備と更新の課題解決方法について述べる。

 

1.1. 統合型GISの現状

統合型が叫ばれて、すでに10年が経過しているが、各地で様々な統合型が導入されている。そのタイプは次のように分けることができる。

  1. 統合型に民間地図を利用しているもの。
  2. 個別GISの一部の空間データを統合型に取り入れているもの。
  3. 庁内の全ての空間データの整合性を取っているもの。

(1)の統合型に民間地図を利用しているものには、庁内の建設GIS、下水GIS、資産税GIS、都市計画GIS等の個別GISは導入されている。これとは別に統合型GISが導入され、その空間データに民間データが使われているものがある。これは統合型の空間データに個別GISのデータを使うことが庁内のコンセンサスが得られず、また、使うためのそれぞれの整合性を取るためには多大な投資を要するため、手っ取り早く民間データを利用しているものであるが、家名や更新頻度が高いため比較的人気がある。しかし、民間地図に個別GISの主題を重ねて使用することも多く、民間地図との整合性費用の分だけ上がってしまう欠点がある。また、庁内にあるデータをなぜ利用できないかと疑問が残る。
(2)の個別GISの一部の空間データを統合型に取りいれているものには、主として都市計画等に整備されている地形図の空間データを統合型に活用し、庁内に流通させている。しかし、建設GIS、下水GIS、資産税GIS等で整備・更新した空間データまでは統合型GISに反映させていない。このタイプでは、他の個別業務で作成した空間データの重複投資を解決することができていないので、費用はむしろ以前より上がってしまう。
(3)の庁内全ての空間データの整合性を取っているものには、各個別GIS間の整合性を取るための一時的な費用の増大があるが、重複整備をしないので長期的に費用を最低減に抑えることができる。しかし、これまでの各個別GISの空間データは、それぞれ独自に整備・更新しているため、整合性が取れていない。このため、一時的に整合性を取るための費用が発生する。

 

1.2. 空間データ整備の現状

自治体は、条例、慣習、必要性等から紙であろうが、デジタルであろうが、これまで営々として主題図を作成している。また、これからも業務を遂行するために不可欠な情報として空間データを整備・更新するであろう。この現実を直視しなければならない。業務を遂行する上で、地形及び主題の整備・更新が必要でなければ個別GIも、統合型GISも必要はない。業務を遂行する上で個別GISも、統合型GISも必要とするならば、空間データの重複整備・更新の手法を確立することは最も重要である。
自治体の業務は、それぞれの部門が主業務を持っているが、それを行うために他の部門の情報によって行われることが多い。それは、単に地形地物に限らず、主題地物にも及んでいる。例えば、都市計画の用途地域の線引きは、地番単位で行う必要がある。
従って、実際の線引きを行うためには、地番図が必要である。また、道路では、通学路の歩道整備を行うには、教育委員会の通学路、学区のデータが必要となる。道路の建設には地番図が必要となる等、複数の部門の情報に基づいて事業を決定している。
このことは、第7回の図1、主要5業務における地物の重複度を見れば他部門の引用がいかに多いか一目瞭然である。
このように、複数の部門で作られている空間データが相互に関係している現実を考えると、空間データ整備の手法として、空間データ基盤標準の整備や基盤地図情報の整備を、すでに存在している空間データの一部を空間データ基盤標準、基盤地図情報として取りだすことは、ユーザの立場から見ると、使用するに当たり空間データ基盤標準、基盤地図情報にない地物を他の空間データから引用する必要が出てくる。引用した空間データは、空間データ基盤標準、基盤地図情報との整合性に問題を起こし、煩わしい作業が生ずるため、合理的な整備方法とは考えにくい。
そこで、無駄な整合性を取るための重複投資を避けるための方法について2章で述べる。

 

2. 重複整備のない、整合性の取れた整備方法

空間データのGIS化の必要性は認識しているが、自治体が抱える最大の課題は、コストである。コストの要因は重複整備と整合性であるといえる。そこで、この整合性を取るための重複整備の課題を解決するための考え方を提案する。

 

2.1. 統合型GISは空間データのストックヤード

個別GISの欠点は、個別業務ごとに空間データを整備・更新するため庁内全体から見ると、結果的に重複整備することにある。また、個別業務ごとに整備・更新された空間データを他の個別業務で利用しようとすると、第8回の空間データの整合性で述べたように、位置正確度と交差の閾値の差が大幅に異なるため、作成した個別業務では品質が保持されていても、他の個別業務で利用しようとすると、交差等の品質で不合格となり、空間データを更新せざるを得なくなる。この原因は、この空間データは、この個別業務のために整備・更新したという意識と手法が問題にある。
統合型GISが叫ばれてから10年以上経過したが、庁内には、建設GIS、下水道GIS、資産税GIS、都市計画GIS、統合GIS等が導入されているが、それぞれの個別業務で整備・更新した空間データを庁内の全ての個別GISに流通させ、個別GISで整備・更新した全ての空間データを全ての個別GISで活用している例はわずかである。これでは、統合型GISという新しい個別GISを整備しただけである。重要なことは、空間データの個別GIS間の整合性を取ったマスター空間データを作ることである。
これまで、統合型GISという利活用に必要な地物だけの視点で見てきたため、整備・更新における整合性の課題、すなわち整備コストが見過ごされてきた感がある。従って、統合型GISを空間データの整備と利活用の両面から見た合理的な方法とは、空間データの整備・更新段階において、図1のようにマスター空間データを作成し、利活用段階では組織が必要な地物で構成する空間データ基盤をマスター空間データから選択すれば良いと考えている。このような概念にしないと整備・更新のコストを低減することができない。

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図1 個別GISとマスター空間データの関係

マスター空間データを作成するためには、庁内全体で空間データの地物の整備・更新の主管部門を決める必要がある。そのうえで、空間データの整備・更新の流れは図1の通りで行うものとする。

  1. 最初に町全体の整合性の取れた空間データをマスター空間データとして整備する。
  2. A,B,Cの各個別GISは必要な空間データの地物をマスター空間データより取り込む。
  3. A,B,Cの各個別GISが更新を行う場合には、個別GISごとに更新を行う。
  4. 更新された個別GISの空間データは、マスター空間データの空間データを更新する。
  5. 更新したマスター空間データの品質検査を行い、不具合部分を全体調整として調整する。
  6. 全体調整したマスター空間データの空間データを個別GISに反映させる。

全体調整とは、個別で更新した空間データは、全体を重ねた場合に、その個別GISでは管理していない地物と重なりの解消、自治体では直接管理していない国道、県道、高速道路等を追加及び接合を調整する作業である。
このように、整備・更新の仕組みを作り上げることによって、重複整備の排除と整合性を保つことができる。但し、このような仕組みを作り上げるためには、その前提として、個別GISとマスター空間データのデータ相互運用(インターオペラビリティ)の機能を持つGISを導入していることが前提となる。従って、マスター空間データの空間データは、庁内の空間データのストックヤードと考えれば、マスター空間データのために発生する費用は、次の内容となる。

  1. 初期整備における庁内の空間データの整合性を取るための費用
  2. 個別GISで更新した空間データのマスター空間データへのインストール作業
  3. 自治体内で管理していない空間データの追加、更新作業
  4. 更新したマスター空間データの空間データの不整合の修正作業のための費用

これらの費用は、これまでにかかっていた重複整備・更新と整合性の費用から見れば大幅にコストを削減できる。

 

2.2. 空間データ基盤の項目

これまで、統合型GISのサポートすべき空間データの項目は、空間データ基盤基準にしろ、基盤地図情報にしろ、ある視点から見た重要と思われる空間データを項目として上げている。
筆者も、統合型GISが叫ばれた当時は、重複整備されている地物項目を統合型GISの空間データ基盤標準(共用空間データ)とすべきであると主張してきた。しかし、過去10年に渡る岐阜県等における経験から言えば、特定の地物を空間データ基盤標準とすると、それ以外の地物が特定地物との整合性が取れなくなり、空間データの修正作業が必要となる。このようなことから、整備した全ての空間データは、マスター空間データとして常に全地物の整合性を担保する仕組みが最も重要であるとの結論に至った。従って、市町村単位、県単位、あるいは国単位に、全て整合性が取れたマスター空間データがストックヤードで維持管理できたとしたら、統合型GISのサポートすべき空間データ基盤標準は、それを利活用するユーザが必要とする地物を流通させることが合理的である。
マスター空間データと統合型GISの空間データ基盤標準の関係は、マスター空間データにストックされた空間データをどの地物まで統合型GISの空間データとして庁内に流通させるかは、理論の問題ではなく、合意の問題である。庁内で合意された地物を流通させれば良いと考えている。
仮にマスター空間データの全てを流通させたとしても、現在のGISソフトはユーザが必要でない地物の表示をOFFでき、特定の人間にのみに閲覧できるようにすることもできる。また、流通させないこともできる。それは、ユーザ自身が判断する問題であろう。従って、最も重要なことは、統合型GISの空間データ基盤標準にどの地物を選定することが重要ではなく、組織を上げてマスター空間データを作る仕組みを作ることが重要である。

空間データ整備から見た課題(2)

 

1. 空間データの整合性

1.1. 異なる業務で作成して空間データ

個別業務ごとに空間データを作成した場合には、同じ業務で作成した空間データの整合性は取れるとしても、異なる業務で作成した空間データとの整合性が取れることはまれである。なぜならば、品質は発注業務単位であって、異なる業務の空間データは品質検査の対象となっていないからである。しかし、自治体内において、異なる業務の空間データを活用する時に必ず発生する課題が整合性の問題である。
図1で示すようにA業務で作成した道路縁のデータを、B業務で作成した建物のデータを重ねたものとする。道路縁と建物の黒線は真値とし、道路縁の検査で合格する位置正確度の許容範囲を赤線で示している。公共測量作業規程は、位置正確度を標準偏差で1.75m以下としている。そして、最近の交差の閾値は基盤地図情報のように10cm以下としているところもある。
道路と建物は、都市部では、道路と建物の間隔が数センチで建設されていることが多い。このようなケースの場合、位置正確度はOKであるが、交差では不合格となる場合が多々ある。従って、A業務で作成した道路縁のデータにB業務で作成した建物を利活用して新たな主題図を作ろうとしても、交差の修正が必要となる。位置正確度と交差の許容範囲の著しい差が原因である。

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図1異なる業務で作成したデータ例

このような現象は、主題図の作成が業務単位に作成するために起きるものである。このような現象を起こさないためには整合性を取ることが必要である。そこで、次回に重複整備のない整合性の取れた整備方法について詳しくで述べる。

1.2. 図郭単位で作成した整合性

空間データの原典資料をDMデータとする場合、DMデータは図郭単位に作成されているので、図郭を跨る地物の編集が必要である。
準則の取得分類基準には次のように記載されている。

  1. データタイプが面として規定されているデータにおいて、図郭や作業範囲等で分断される場合は、線形式で取得するものとする。
  2. 図郭で分断される場合は、データの始終点座標は図郭線に一致するものとし、分断された隣接図郭のデータの始終点座標とも一致しなければならない。

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図2 図郭を跨る地物の取得方法

このように取得した場合に、次のような課題が残る。

  1. 地物のデータタイプが面の場合、図郭と地物が交差した場合に、面と線の2種類が存在する。
  2. 交差上の同一点(図上の1と4、6と1)が異なる座標となることがあり、微少線分、非直線性等のエラーとなる可能性が高い。(基盤地図情報では完全性の検査項目に微少線分の有無を検査するように求めている。地物を図郭によって分断しなければ、同一地物で線分と面の2種類の空間属性の地物を作成する必要もなく、完全性に微少線分の検査も必要なくなる。これらはすべて無駄な作業から発生している。)
  3. GISデータは、自治体の領域をシームレスに作成するので、無駄な作業を強いられる。

図郭単位でデータを出力したいという必要性を理解できるが、このような取得方法は、GISの機能を理解していない人間が考えたとしか言いようがない。
企業によって作成方法が異なるであろうが、この取得基準に基づく作成方法では、図化はできるだけ外形をなぞり、編集において始終点が一致するように座標の編集を行い、更に図郭を跨る地物については、取得基準に基づき、図郭線との交点で地物を分離することになる。要は地物の取得、整形、分離の3工程を行うことになる。更に、このDMデータよりGISデータを作成するには、図郭によって分離された地物を集合させなければならない。何とまあ無駄なことしているのであろうか。
空間データに限らず、生産とはコストと品質が重要である。品質要求に適合した空間データをいかに低コストで作成するかの戦いであると考えている。整形したものを図郭線があるから分離するという作業は無駄の他、何物でもない。国及び自治体は、お金がないと言っているのであるから、この程度は作業規程の改訂に協力して欲しいものである。
しかし、作業規程に改訂をしていただけないのなら、筆者なら、図郭にかかわらず地物単位で取得し、空間データをシームレスに作成する。そして、どうしても、そのデータから図郭単位のファイルを作成したい場合には、たいがいのGIS,CADはクリッピング機能を持っているので、図郭の座標に基づきクリッピング機能でファイルを作成すれば良い。クリッピング機能は、指定した領域(この場合図郭)に交差した場合には、交点の座標を自動的に作成してくれる。従って、領域を跨る地物は、領域内の座標列に変更されるので目的は達成できる。あとは、プログラムを開発する必要であるが、分断された地物が面の場合には、データタイプを線に変更すれば良い。

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図3 クリッピング

この方法だと元データは分離されていないので、集合の作業は無くなり、元データは、指定されたフォーマットに変換すれば、GISデータとなる。何と合理的ではないか。
DMの根本的な問題として、ファイルを図郭単位に作成する必要があるのだろうか。図郭単位のファイルの必要性が紙図への出力であれば、全域のデータから、図郭単位に印刷範囲をクリッピング機能で指定すれば、その範囲を印刷できるはずである。ということを考えると、単に今まで図郭単位に管理していたので、管理の都合上、図郭単位の作成を続けているだけではないだろうか。 空間データの取得方法は、GISや編集機(編集機のほとんどはMicroStationかAutCADが使われている)の機能に併せて進化させる必要性がある。GISや、編集機の機能は空間データ作成の課題を解決するために進化させていくものである。もし、GISや編集機がユーザのニーズに答えられなければ、そのような製品は利用者から見向きもされなくなるものである。その意味からこの取得方法はコストアップをまねき、準則に記載されている取得方法に疑問に感じる。結局、図郭単位の作成は、図郭で分断作業、更にGISをデータ作成するため、分断した地物の集合を求めているため、発注機関にコストアップを求めている。

1.2. 隣接自治体との整合性

国土地理院に公共測量の実施計画書を提出すると、隣接市町村に基盤地図情報が整備されている場合に、隣接市町村との接合は、基盤地図情報と接合を取ることを助言される。
一般的に自治体は、地形図を5年に1回更新される。今回の事例は、更新する地形図は最新情報であり、隣接自治体の基盤地図情報は、このデータより古いものである。従って、古いデータに新しいデータを合わせることを助言しているように受け取りかねない。もちろん、「基盤地図情報を利用した地理空間情報整備のための手引」には「隣接地域に既存の基盤地図情報が存在する場合、接合処理を行います。しかし、既存の基盤地図情報が新たに整備する地理空間情報と比較して、地図情報レベル又は鮮度が明らかに劣る場合はこの限りではありません。」と記載がある。しかし、このようなことは、自治体は全く知らない。
筆者が係っている自治体が公共測量の実施計画書を提出したところ、「隣接市町村との接合は、基盤地図情報と接合を取ること」と助言された。そこで、境界付近の道路縁をGPS測量で行った。その結果、次の結論を得た。

  1. 隣接市町村の道路縁の精度が出ていない。
  2. 隣接市町村のデータの方が、現況が拡幅されているものに対応していない。

従って、助言には従わないこととして、成果の提出に際して、現地測量のデータを説明した。
多くの自治体では、DMデータの品質検査は、1%程度しか検査が行われていない。従って自治体の境界を突抜ける道路の境界点付近の品質検査は、検査されていない確率が高いので、品質を保証できる確率は低いと見るのが一般的である。
このような助言をするのであれば、品質要件に境界点付近の検査項目を明記すべきであると考えるがいかがであろうか。また、現況が変化しているにも係らず、それに合わすことは合理的ではない。
自治体単位で整備される空間データを隣接自治体との整合性の取れたデータに変換するには、上記のような課題を解決しなければならない。更新サイクルが5年のような長いサイクルの場合に、自治体に解決をゆだねること自体に問題がある。岐阜県では、県が全体調整費としてこのような整合性を取るための作業を行っている。自治体が自治体の領域を整備更新するのに管理外の基盤地図情報との整合性を求めること自体が合理性を欠いている。

空間データ整備から見た課題(1)

 

1. 個別GISの課題

1.1. はじめに

個別業務で必要な空間データをデジタル整備する動きが活発となっているが、計画機関の予算が部門別の予算制度のため、個別業務のGISを進めれば進めるほど、導入・維持経費が増大するとともに次のような課題が発生している。
(1) 個別業務ごとに更新しているため、庁内全体としては複数取得している。(重複整備)
(2) 空間データは、業務単位で整備・更新しているため、他の業務の同じ地物と重ねると合わない。(整合性)
(3) 空間データは、自治体の領域単位で整備しているので、隣接市町村との接合があまり考えられていない。
(4) 地物は、業務によって重要度が異なるため、道路台帳付図における建物のように主題でない地物を更新していない場合がある。
(5) 業務ごとに更新サイクルは1年〜5年と異なる。
そこで、今回は、重複整備の実態について述べることとする。

2. 個別業務単位整備の重複度調査

2.1. 重複度調査
個別業務ごとに整備する空間データは、整備する領域のその業務に必要な全ての地物を取得することになる。従って、道路、下水、水道、固定資産、都市計画等の各業務を合わせて見ると、道路縁、歩道、側溝、中央分離帯、石段、地下街・地下鉄等出入口、道路のトンネル、橋、並木、建物、河川等・・・等はそれぞれの業務で個別に作成している。
筆者がこのことに気が付き、調査分析をおこない、1997年にGIS学会で「地方自治体の地物の重複」として発表し、2003年に「実学 自治体のための統合型GIS」にまとめた。全国16自治体の主要5業務で作成している主題図54種類(道路管理10種、固定資産14種、都市計画24種、下水道6種、水道2種)に書かれている地物の重複度を表1に示す。

調査の結果では主要5業務で取得されている地物は483種類ある。また、「管理責任」は、法令、条例等で管理が義務付けられている地物で137種がある。そして、346種類の地物は、137種類の地物の相対的位置関係を示すために書かれた地物である。

表1 主要5業務における地物の重複度

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表1 主要5業務における地物の重要度

2.2. 調査結果の分析

54種類の主題図に描かれている地物の総数は、主題・引用の合計が3,399回、背景・引用の合計が2,701回で、総合計は6,100回となる。従って、483地物の平均引用回数は12.6回となる。しかし、他に引用されていない48地物を除いた平均引用回数は13.9回となる。

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主題図を作成する場合、目的ごとに新規に測量や、既成図の転記を行って作成している。紙図で作成する場合には、新規測量でも、転記でも費用を必要とするが、しかし、原典がデジタルデータの場合には、転記を最小限度の費用で作成できるので、重複整備をなくす方法を取れば、空間データの整備・更新費を大幅に削減できる。そこで、地物別に重複回数を調査した結果を図1に示す。
図1の結果は、地物全体の98%が重複し、その8割が重複回数19回までに存在することがわかる。しかし、98%重複していても、他部門との重複がなかったら、個別業務GISでも何ら問題がないことになる。そこで、作成した地物が他部門でも同じ地物を作成している場合は引用できるので、引用の度合いを調査した結果を図2に示す。
他部門が引用できる地物は、483地物中336地物で総数の70%が引用できることがわかった。

3. 重複整備の解決策

調査結果の分析によって、主要5業務で作成している483地物中の336地物が重複整備していることがわかった。このことは、すでに整備してあるデータを複数回整備していることを示している。
これまで、重複整備の問題が表に現れない原因としては、次の理由が上げられる。
(1) 予算措置が部門別に管理するため整備する地物のような専門的な細かい部分まで管理出来ていない。
(2) 空間データの整備そのものが事業の一部のため、その事業に空間データの整備が含まれているのか把握しづらい。
(3) 地形図、主題図は紙図からデジタル情報を管理するGISに変わったが、空間データの整備は、単に紙図からデジタル化されただけで、デジタル空間データ特徴を生かした整備に関する指針が出来ていない。
等が上げられる。

3.1. 重複整備をなくす整備方法

現在でも進められている個別業務ごとの整備方法では、地物が重複されて整備されていることが理解できたものと思う。
そこで、空間データ整備の概念を個別業務ごとに行うのではなく、各自治体全体で空間データを整備するという考え方に変えることが必要である。具体的には、各自治体全体で整備する地物を列記しして、その地物に対して、どの部門が責任を持って整備・更新するかを決める。(これを管理責任とする。)できればその整備更新を行う事業名と更新サイクルを明確にしておく。例えば、道路は建設部が道路台帳より毎年更新するというように。そして、各部門に割り当てられない地物は、情報システム部が3年ごとに更新するというように。
このように、できるだけ通常の業務で行っている作業をベースに地物ごとの管理責任の部門をきめておくことによって重複整備を防ぐことができる。

 

3.2. 忘れられている重複整備

忘れられている重複整備は、固定資産で整備している家屋と地形図における建物である。家屋と建物は、取得条件が異なるため、現在でも多くの自治体では別々に整備されている。しかし、地形図から見ると、市街地では、建物が全体の整備の3割以上を占めていることも理解する必要である。しかも、家屋の更新は毎年か、あるいは3年ごとに更新されている。この重複整備を取り除くことが出来れば、全体の整備費を3割程度削減できることが予想できる。ここで、家屋を建物として利活用している例を紹介する。
家屋を建物として利活用するために次のような前提条件がある。
(1) これまで家屋は簡易オルソを作成してオルソからデジタイズによって1/1,000の家屋を作成していた。このデータをそのまま利用することは位置正確度に課題がある。そこで、精度1/1,000のオルソを作成してデジタイズによって家屋を作成した。
(2) これまで家屋の取得は課税基準をベースとして取得していたが、建物の取得基準のものも併せて取得することとした。ただし、取得家屋で課税基準に達していないものについては、属性に非課税の属性を記述する。
(3) 家屋の属性に建物区分(普通建物、堅牢建物、無壁舎、堅牢無壁舎等)、建物記号等を追加して地形図の建物の属性を追加しておく。

このようにすることによって、地理情報レベル1,000で取得した家屋を地形図の地理情報レベル1,000又はレベル2,500で利用することができる。そして、家屋図と建物を完全一致させている。また、筆者の実績では、コストが家屋図と地形図の更新を別々に行うより、3割以上の費用の削減ができている。
一般産業界では、コストダウンのため、部品の共通化、部品点数の削減のため血なまこになっている。しかし、空間データ整備の分野においては、これまでこのような考え方があまり進んでいない。空間データの整備はお金がかかるものと諦めていないだろうか。発想を変えて、一般産業界のように部品点数の削減(地理情報における重複整備)をなくすために血なまこになる必要がある。

第6回 統合型GISへの歩み(5)

国土空間データ基盤と基盤地図情報

 

1. 空間データ基盤標準と基盤地図情報

1.1. 空間データ基盤標準
1999年に策定された「国土空間データ基盤標準及び整備計画」では、国土空間データ基盤標準を利用頻度が高く社会・経済効果が大きい等、基盤としての必要性を重点的に検討したうえで、関係省庁連絡会議において次に示す7つの分類項目とそれに対応するデータ項目を空間データ基盤標準とした。その項目は、測量基準点(国家基準点、公共基準点、標高点、参照点)、標高・水深(格子点の標高、水深、島しょうの標高)、交通(道路区域界、道路中心線、鉄道中心線、航路、道路橋、横断歩道、車・歩道界、対面通行道路と一方通行の区別、キロポスト、鉄道区域、鉄道橋、跨線橋、停留所、プラットホーム、港湾区域界、係留ブイ、検疫錨地)、河川・海岸線(河川区域界、水涯線、海岸線、湖沼、低潮線(干出線)、河川中心線、桟橋、防波堤)、土地(筆界等、森林区画界、農地境界)、建物(公共建物及び一般建物、宅地・敷地)、位置参照情報(地名に対する位置参照情報、行政区画、統計調査区、条署に対する位置参照情報、標準地域メッシュ)、公園等(公園、飛行場)、画像情報(画像情報)が上げられている。

1.2. 基盤地図情報
「地理空間情報活用推進基本法」(平成19年法律第63号。以下「基本法」という。)が平成19年5月23日に成立、5月30日に公布、8月29日に施行された。
また、基本法では基盤地図情報の項目及び満たすべき基準に関する国土交通省令(以下「省令」という。)及び基盤地図情報の整備に係る技術上の基準(国土交通省告示として制定。以下「告示」という。)を定めることが規定された。基本法では、現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会を実現する上で地理空間情報を高度に活用することを推進することが極めて重要であることにかんがみ、地理空間情報の活用の推進に関する施策に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、地理空間情報の活用の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、地理空間情報の活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的としている。としている。また、基盤地図情報は、地理空間情報のうち、電子地図上における地理空間情報の位置を定めるための基準となる情報であるとしている。そして、基盤図情報のデータは次のデータ項目である。

測量の基準点、街区点、標高点、等高線、DEM区画、行政区画境界線、町字界線、行政界代表点、行政区画、街区線、街区の代表点、街区域、海岸線、水涯線、水域、水部構造物、河川区域境界線、河川堤防表法肩法線、建築物外周線、建築物、道路縁、道路構成線、道路域分割線、道路域、道路区分面、道路中心線、道路区域界線、軌道の中心線、標定点、検証点

2. 準則と基盤地図情報の取得地物比較
公共測量は公共測量作業規程の準則によって作成される。ほとんどの自治体は、国土交通省の公共測量作業規程の準則に則っている。従って、地理情報2,500、基盤地図情報の原典資料は、ほとんど準則にうたわれているDMデータから作成されることとなる。そこで、準則と地理情報レベル2,500、基盤地図情報の取得地物の比較を行って見る。

2.1. 準則と地理情報レベル2,500の取得地物比較
準則と地理情報レベル2,500に間には次のような差異がある。
(1)準則の2,500で規定されているが、地理情報レベル2,500にないもの。
所属界、軽車道、税関、老人ホーム、風車、凹地(矢印)
(2)地理情報レベル2,500規定されているが、準則の2,500にないもの。
軽車道中心線
(3)準則と地理情報レベル2,500の名称が異なるもの。(「」は地理情報レベル2,500の表記)
道路縁「真幅道路境界」、徒歩道「徒歩道中心線」、庭園道路「庭園路境界」、道路橋「道路橋境界」、徒橋「徒橋中心線」、横断歩道「横断歩道境界」歩道「歩道境界」、石段「石段境界」、地下街・地下鉄等出入口「地下街・地下鉄等出入口境界」、道路のトンネル「道路のトンネル坑口」、分離帯「分離帯境界」、普通鉄道「普通鉄道中心線」、路面電車「路面の電車の中心線」、特殊鉄道「特殊鉄道中心線」、建設中の鉄道「建設中の鉄道境界」、鉄道橋「鉄道橋境界」、鉄道のトンネル「鉄道のトンネル坑口」、停留所「停留所境界」、プラットホーム「プラットホーム境界」、鉄道の雪覆い等「鉄道の雪覆い等」、普通建物「普通建物境界」、堅牢建物「堅牢建物境界」、普通無壁舎「普通無壁舎」
堅牢無壁舎「堅牢無壁舎境界」、土堤「土堤等」、しの地(笹地)「しの地」等

地図情報レベルは、DMデータを地理情報標準(JPGIS)に合わせて作成したものであると言われているが、表記する地物が準則と地理情報レベルで異なっているものがある。また、準則では軽車道の表現は、1/5,000から使用するということになっているが、地図情報標準2,500で採用しており混乱しているところがある。
地理情報2,500では、名称が準則に付いていない“中心線”、“境界”がつけられている。地理情報2,500と準則が異なる名称を付けなればならない理由がわからない。また、名称を変更しなければならないものならば、関連する仕様書は、統一したものにして欲しいものである。空間データの生産する側に意味のない名称変更を求めることで、無駄な労力を求めてコストアップの要因を作らないようにするが必要である。

2.2. 準則と基盤地図情報の取得地物比較
準則と基盤地図情報の間には次のような差異がある。
(1)準則の2,500で規定されているが、基盤地図情報にないもの。
徒橋、横断歩道、地下街・地下鉄等出入口、道路のトンネル、道路の雪覆い等、並木、鉄道橋、跨線橋、鉄道のトンネル、停留所、プラットホーム、鉄道の雪覆い等、建物記号、枯れ川、桟橋、渡船発着所、流水方向、土堤、かき、へい、区域界、駐車場、園庭、墓地、資材置き場、噴火口・噴気口、植生界、耕地界、田、畑等の植種・・等
(2)基盤地図情報に規定されているが、準則の2,500にないもの。
街区域、水域、道路域、道路区域界、安全地帯、側溝・U字溝、側溝・L字溝、側溝地下部、雨水桝、トンネル内の鉄道、トンネル内の路面鉄道・モノレール・特殊鉄道、用水路、水路地下部、表法肩の法線、河川区域界、急斜面等
(3)準則と基盤地図情報の名称が異なるもの。
地物の定義方法が全く異なるので比較できない。

基盤地図情報の取得地物と原典資料の関係は次のようになっている。

No 基盤地図名 原典資料
1 測量の基準点 基準点データ(国家基準点、公共基準点)
2 街区点 基準点データ(街区点)
3 標高点 都市計画図、道路台帳附図、河川基盤図
4 等高線 都市計画図、道路台帳附図、河川基盤図
5 DEM区画 数値地図標高データ
6 行政区画線 都市計画図、道路台帳附図
7 町字界線
8 行政区画代表点
9 町字の代表点
10 行政区画
11 街区線 数値地図2500
12 街区の代表点
13 街区域
14 海岸線 都市計画図、道路台帳附図
15 水涯線 都市計画図、道路台帳附図、河川基盤図
16 水域 ※上記、水涯線、海岸線より作成
17 水部構造物線 都市計画図、道路台帳附図、河川基盤図
18 水部後続物面 ※上記、水部構造線より作成
19 河川区域界線 都市計画図、道路台帳附図、河川基盤図
20 河川堤防表法肩法線 都市計画図、道路台帳附図、河川基盤図
21 建物外周線 都市計画図、道路台帳附図
22 建築物 ※建物外周線より作成
23 道路縁 都市計画図、道路台帳附図、道路基盤地図情報
24 道路構成線
25 道路域分割線
26 道路域 都市計画図、道路台帳附図(道路域のポリゴンデータがあれば使用する。)
※特別に指示があった場合、道路縁、道路区域界、道路分割線からポリゴンを作成
27 道路区分面 道路基盤地図情報
28 道路中心線 ※作成作業の対象ではない
29 道路区域界線 都市計画図、道路台帳附図、道路基盤地図情報
30 軌道の中心線 都市計画図、道路台帳附図
31 標定点 ※図葉調整の際に測量の基準点から設定
32 検証点

基盤地図情報は、地理空間情報のうち、電子地図上における地理空間情報の位置を定めるための基準となる情報であるとしている。また、その整備する項目は、1999年に策定された「国土空間データ基盤標準及び整備計画」で示された国土空間データ基盤標準に酷似している。その意味では統一性が取れている。

3. 考察
1999年に策定された「国土空間データ基盤標準及び整備計画」に次のように記載されている。
「統合型GISの目的は、政府におけるGIS普及の取組の中核となるものは、GISを利用する上で不可欠な、国土に関する基礎的、骨格的データである、国土空間データ基盤の整備である。
ハードウェア、ソフトウェアの低価格化が進み、簡易なGIS導入が可能になる一方で、GIS利用の基礎となる地図データの整備費用の負担は依然大きい。地図が未だに電子化されず、既存の地図データが入手できる場合であっても、データの仕様が異なっているために利用できない場合には、GISを導入する主体が各々地図の電子化を進める必要があるため、社会的には二重、三重の投資となり、費用負担の上でも現実的とは言えない。
我が国においても、GISの利用のために必要な、国土に係る骨格的なデータを、道路、鉄道、港湾、空港等の社会基盤の整備と同様に、高度情報通信社会の社会基盤、情報通信インフラと考え、整備する必要性が認識され始め、政府における取組が進められてきた。
国土空間データ基盤として、国が新たに巨大なデータベースを構築し、一元管理し、提供するのではなく、各々の主体が整備している空間データのうち、基盤的なものを国土空間データ基盤として定義し、各データ整備主体が、さまざまな電子媒体やネットワークを通じてこれらを提供し、利用者は必要なデータを個別に入手し、重ね合わせて利用するものであり、目に見えない複雑なデータベースのネットワークを作り上げていく試みともいえるものである。」
これに対して、地理空間情報活用推進法では目的を次のように次のように定めている。
「基盤地図情報は、地理空間情報のうち、電子地図上における地理空間情報の位置を定めるための基準となる情報である。基盤地図情報の項目は省令で定める。」とある。従って、「国土空間データ基盤標準及び整備計画」と国土空間データ基盤標準は目的が異なっている。しかし、基盤地図情報の整備項目は、国土空間データ基盤と類似しており、その延長上にあると見て議論を進めることとする。

3.1. データ項目の矛盾
基盤地図情報の目的と実際の整備及び公開等の方法で疑問を感じることが多い。

(1)位置を定めるための基準となる情報とすると
常に境界が変動している水涯線、海外線等、境界に不明箇所のある道路域、水域、河川区域界、河川堤防表法肩法線等は、基準そのものが明確になっていないことがあるので、基盤地図情報の目的である位置を定める情報とはならないのではないか。
(2)基盤地図情報が国土空間データの基盤データ項目とすると
基盤地図情報のデータ項目は公共測量作業規程の準則のレベル2,500と異なり、レベル500のものも入っている。基盤とは、物事を成立させる基礎となるものと定義すると、公共測量作業規程が1/2,500で基盤として定義されていないものが、基盤地図情報に定義されていることは問題がある。基盤地図情報の名称を変更するか、公共測量作業規程の準則を変更するべきであると考える。

3.2. 基盤地図情報の整備精度
基盤地図情報の整備項目と原典資料は、表1に示すとおりである。
基盤地図情報の整備項目の目的が、位置を定めるための基準とするならば、水涯線、海岸線等は測量日によって異なり不適切であると考える。また、道路区域、河川区域等の境界は自治体も頭を悩まされており、地積測量等が完了しない限り無理なではないだろうか。一般的に自治体では、都市計画の用途図、その他の区域の設定について、最終的な境界は地番図を見て指導することを前提としており、地図とは別に用意している。従ってこのように習慣、慣例から異なっているため現段階では基準とするには無理がある。また、基盤地図情報を利用した地理空間情報整備のための手引に記載してある「基盤地図情報の位置精度は、平面位置の誤差が、都市計画区域は2.5m」は、公共測量作業規程の準則で規定している更新を行った場合に2.5mとなっているが、基準とするならば、初期整備の1.75mより良くなければいけないのでないかと考えている。

3.3. 基盤地図情報の利活用
基盤地図情報は、自治体のDMデータ、道路台帳附図、河川基盤図等から作成している。国土地理院は、DMデータ等を提供した自治体に対して基盤地図データの活用を説いて回っている。しかし、次の理由により活用は難しいのではないかと考えている。
(1) 基盤地図情報は自治体がDMデータ、道路台帳付図等ベースに作成したものである。従って、その自治体にとってデータのほとんどはすでにあるものである。ないとすれば、一級河川の河川基盤図等の情報である。自治体が持っている情報より地物数の少ない基盤地図情報を使う理由が見当たらない。基盤地図情報の地物で良いなら最初からその地物で整備しているはずである。
(2) 基盤地図情報が位置を決める基準とするとした場合、水涯線、海岸線、河川堤防表法肩法線、区域のように、常にデータが変わるものや、境界線が不明確なものまで規定している。
(3) 自治体のGISはすでに統合化され、地形図の上に各種の情報が整合取れた状態で整備している。基盤地図情報を採用することは、その他の地物の整合性を取る必要があり、整合性確保のために整備費がかかるが、そこまでする必要性が見えない。
(4) 基盤地図情報を位置の基準とするなら、公共測量作業規程の要求する品質より1ランク上の品質のものを提供しなければ、自治体はそのデータを採用することはできないのではないか。
(5) 基盤地図情報の利用面から考えるならば、注記がない白地図では対象とするユーザをどこにおいているのかわからない。国や自治体を対象とするならば、Webで公開するより別の方法がある。国民を対象とするならば、基盤地図情報より民間地図の方がよっぽど親切でわかりやすい。

このように、基盤地図情報は矛盾している。基盤地図情報が位置を定める基準とするならば、位置正確度はDMデータ以上の精度を持っていなければならない。また、利活用を考えが得るならば、DMデータ以上の地物項目をサポートしていなければならない。そして、道路名、建物名等の注記がない白地図では不便きわまる。基盤地図情報が1980年代のUIS㈼の時代に整備され、今は影も形もなくなってしまった白地図データの二の舞にならないように祈るばかりである。


統合型GIS実現のための施策

1. 統合型GISを実現するための施策

政府は統合型GIS実現のため、関係省庁が役割を分担して施策を行うこととなった。
その主な施策について列記する。

 

1.1. 国土空間データ基盤の整備及びGISの普及に関する長期計画

政府は、1996年に内閣内政審議室(当時)に「地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議」を設置して「国土空間データ基盤の整備及びGISの普及に関する長期計画」を発表された。長期計画では、1996年〜1998年を基盤形成期、1999年〜2001年を普及期としている。
基盤形成期の内容
(1)国土空間データ基盤及びメタデータの標準化
(2) デジタル画像の整備
(3) 先行的なクリアリングハウスの構築
(4) 国土空間データ基盤の整備についての役割分担の明確化
(5) 国土空間データ基盤の整備計画の策定
(6) 国土空間データ基盤の整備の推進及び相互利用の促進のための体制整備
(7) GISの推進のための環境整備

普及期の内容
(1) 国土空間データ基盤の整備
(2) 国土空間データ基盤の普及啓発
(3) 国土空間データ基盤の更新
(4) 技術支援の実施
を長期計画に盛り込んでいる。

 

1.2. 国土空間データ基盤標準及び整備計画

1999年には「国土空間データ基盤標準及び整備計画」が策定された。ここでは、統計データや台帳等を基本空間データと呼び、標準化した地図データを空間データ基盤と呼び、航空写真や衛星画像をデジタル画像と呼ぶこととした。そして、地理的位置と関連付けられる全てのデータを空間データと呼ぶこととして、基本空間データと空間データ基盤とデジタル画像を総称して国土空間データ基盤と呼ぶこととした。

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国土空間データ基盤標準の技術的標準については、異なる整備主体により整備されて空間データの相互利用が極めて重要なことから、ISO基準に基づく地理標準を早急に整備し、異機種間の相互運用についても標準化に含めることとした。
空間データ基盤については、利用頻度が高く社会・経済効果が大きい等、基盤としての必要性を重点的に検討したうえで、関係省庁連絡会議において次に示す7つの分類項目とそれに対応するデータ項目を空間データ基盤標準とした。

分類項目 データ項目 普及期において更に検討するもの
測量基準点 国家基準点、公共基準点 標高点、参照点
標高・水深 格子点の標高、水深、
島しょうの標高
 
交通 道路区域界、道路中心線、
鉄道中心線、航路
道路橋、横断歩道、車・歩道界、
対面通行道路と一方通行の区別、
キロポスト、鉄道区域、鉄道橋、跨線橋、
停留所、プラットホーム、港湾区域界、
係留ブイ、検疫錨地
河川、海岸線等 河川区域界、水涯線、海岸線、
湖沼、低潮線(干出線)、
河川中心線
桟橋、防波堤
土地 筆界等、森林区画界 農地境界
建物 公共建物及び一般建物 宅地・敷地
位置参照情報 地名に対する位置参照情報、
行政区画、統計調査区、条署に
対する位置参照情報、標準地域メッシュ
 
(公園等)   公園、飛行場
(画像情報)   画像情報

また、整備計画については、本整備計画においては、効率的に国土空間データ基盤整備を進めるためには、提供可能なデータの公開・利用を先行させ、GISの利用を促進し、データ利用の経験を通じて必要なルールを具体化し、更に多くのデータの整備・提供を促すといった、効果的なフィードバックを通じて、段階的に進めることが現実的であるという考え方に立ち、普及期において特に優先的な4つの課題とその考え方を示すこととした。
(1)空間データ基盤の段階的整備
空間データ基盤の整備については、普及期においては、高度情報通信社会の生活空間を支える基盤としてのGISのメリットを、全国の人々ができるだけ早期に享受できるように、提供上の課題の少ないデータに重点をおき、行政による積極的データ提供を促し、民間データの活用可能性についても検討し、これらのデータによりひととおりの全国カバーを目指すとしている。

(2)基本空間データの整備・利用促進
基本空間データとして、できるかぎり多くのデータが提供され、GISのメリットが具体的に示されることは、GISの普及の中心的課題である。普及期においては、これをGIS普及の取組の中心に据え、国民生活のさまざまな場面におけるGISによるデータの活用可能性を高めるための具体的取組を進める。

(3)迅速なメタデータの整備・クリアリングハウスの公開
メタデータは、データ整備における二重投資を回避し、データ相互利用を進める鍵である。各省庁においては、国土空間データ基盤に該当するデータのメタデータ整備及びそのクリアリングハウスによる公開を、普及期の最優先の目標とする。メタデータの公開は、空間データに限らず、開かれた行政を実現するための基礎条件であり、多様な情報のネットワークを通じて共有する高度情報通信社会の基本的ルールと考えられる。GIS分野においては、これを率先して実現する。

(4) データ相互利用のルール・品質評価手法等の具体的検討
現在整備されている空間データは、特定業務目的のために整備され、幅広く相互利用されることを前提として整備されていない場合が多い。このため、さまざまな主体の間でデータを相互利用する基礎条件となる、電子的な空間データ提供・利用の具体的ルール、品質評価方法、行政における民間データの利用可能性等の検討を急ぐ。

また、国は、普及期における地方公共団体への期待として
(1) 地方公共団体においても、高度情報通信社会の進展に対応した情報システムの一つとしてGISへのニーズが顕在化してきている。市町村においては、大縮尺の地図を業務において利用することが多く、複数の部門で地図データを共有する統合型のGISについての関心も高まっている。市町村が業務に用いるGISは、住民の個人情報を扱う場合も多いなど、提供を前提に整備を進める国土空間データ基盤と必ずしも同一ではないが、まず、市町村内部においてGISの導入が進むことにより、地図等の電子化、ハード面等の環境整備につながることが期待される。また、今後、地域における空間データ基盤等の整備を進める上では、都道府県の役割が大きくなると考えられる。すなわち、効率的にデータ整備を進めるためには、地域の情報通信インフラとしてのデータ基盤整備に関して、市町村及び民間企業等の間のコンセンサスづくりが必要となるほか、データ基盤整備を通じてさまざまなデータを統合化し地域づくりに関する企画等に活かす可能性も高まる。
(2) 地域における基盤的なデータ整備を効率的に整備するには、既に当該地域において整備されている国、都道府県、市区町村及び民間企業のデータの賦存状況を調査し、重複投資を回避し効率的に整備を進める必要がある。また、地方公共団体内部におけるGIS利用へのニーズ等を踏まえ、更に、地域のニーズを踏まえたデータの外部提供可能性等を総合的に検討する必要がある。このため、本整備計画及び国土空間データ基盤の趣旨を踏まえ、都道府県、市町村、地域の民間企業、大学等が連携し、地域におけるデータ基盤整備の方針をつくる自発的な取組を期待する。
(3) 地方公共団体が整備するデータのうち、所管省庁によって、提供が可能とされ、提供条件等が示されたデータについて、地域の実情に応じて積極的に電子化し、提供を進めることが期待される。
(4) 地方公共団体、特に市町村においては、さまざまな地図が用いられている。これらは業務ごとに別々に作成されている場合が多く、現実に多用されている1,000分の1から2,500分の1程度の地形図は、作成が義務づけられているわけではないが、事実上の必要性から、ほとんどの市町村において整備されている。これらの地図データは、当該市町村のみならず、地域の基盤的なデータとしても公共的なニーズが高い。今後は、地域の空間データ基盤を整備する観点からも、地図データ等の効率的な作成体制の検討を期待する。
(5) 関係省庁連絡会議は、国土空間データ基盤標準及び整備計画の趣旨を踏まえ、地域における空間データ基盤について、都道府県及び市町村が連携し、本計画等を踏まえ自発的に整備の方針を策定し、整備を進める試みを支援する。

という国土空間データ基盤標準及び長期計画が発表された。
この中で、国土空間データ基盤標準は、重要な項目なので、次回以降に項を改めて記述することとする。

 

1.3. 共用空間データ調達仕様書及び基本仕様書

2001年に地方公共団体のGISの普及を図るため、統合型GISのデータ整備を目的とした共用空間データ調達仕様書及び基本仕様書が策定された。これらは地理標準に基づき準拠して作成されており、地物及びその地物毎の品質要素を定義した品質評価方法の例示、また、メタデータについても記載している。
共用空間データ調達仕様書及び基本仕様書には次の項目が記載されている。

調達仕様書項目 基本仕様書項目
1.0 総則 1.0 1.データ定義
1.1 業務の名称   地物型名称、地物型定義、空間属性、主題属性、時間属性
1.2 業務の目的 2.0 要求品質
1.3 引用する法令や標準   完全性、論理一貫性、位置正確度、主題正確度、
時間正確度
1.4 貸与資料と使用制限 3.0 品質評価方法(例)
1.5 守秘義務   完全性、論理一貫性、位置正確度、主題正確度、
時間正確度
1.6 成果品の帰属 4.0 品質評価結果記録表(例)
1.7 成果品の瑕疵責任 5.0 品質評価結果記録表(例)
1.8 疑義    
2.0 データの概要    
2.1 データの空間的範囲    
2.2 データの時間的範囲    
2.3 空間参照系    
3.0 業務の内容    
3.1 データ整備    
3.2 元資料の指示    
3.3 品質検査    
3.4 取得項目・品質に関する特記事項    
3.5 データの記録仕様    
3.6 メタデータの作成    
3.7 メタデータ記録仕様    
4.0 成果品    

 

1.4. 統合型GIS共用空間データベース及び広域活用のあり方に関する調査研究

2000年に広域活用あり方に関する調査研究を行った。広域(都道府県域レベル)において共用空間データを整備する際の県と市町村の役割分担について、下記の結論を得たとしている。
(1)県の保有する森林地域の共用空間データと市町村における都市計画区域の共用空間データを利用することが可能である。
(2)都道府県及び市町村が一定の役割分担をして共用空間データを整備することにより、重複投資の防止が可能となることが確認できた。
(3)個別業務においても、砂防関係業務で作成された個別データを流通させ、市で県のデータを利用することが実証できた。

また広域活用における課題として次の点があげられている。
(1)共用空間データ整備上の課題
都道府県で整備した共用空間データと市町村で整備した共用空間データを接合する為の技術的な検証及び費用対効果の精査が必要である。
(2)都道府県の整備すべき共用空間データ仕様
都道府県が共用空間データを整備する場合、市町村の広域活用を想定した上で、県の整備すべき共用空間データ仕様を早急に固めることが必要である。
(3)新たな共用空間データの整備モデル
都道府県と市町村の連携を大前提としたモデルについて検討したが、今後は、県による共用空間データを先行させた広域モデルについても検討することが必要である。
(4)クリアリングハウス構築上の課題
メタデータの取得項目や作成単位に注意しながら作成する必要がある。
配置するクリアリングハウスの数は対象地域の広さや組織の大きさを考慮する必要がある。

等が報告されている。
広域活用のあり方については、すでにいくつかの都道府県単位での運用が始まっているので、次回以降に項を改めて比較検討することとする。

 

1.5. 統合型GISの普及に向けた空間データ更新手法に関する調査研究

2001年に統合型GISの普及に向けた空間データ更新手法に関する調査研究がおこなわれた。検討は共用空間データを更新頻度から、建物、道路、筆といった頻繁に変化のある項目とその他のあまり変化のない項目とに区分し、頻繁に変化のある項目について次の実証実験を行った。
建物の更新(掛川市・横須賀市):建築確認、住居表示、固定資産税業務における更新を実証した。道路の更新(豊中市)では、位置指定道路申請業務における更新の実証。筆の更新(掛川市)では、区画整理事業等の確定測量図による更新を実証。その結果、次の(1)から(3)に記載する検証結果が得られた。
(1) 外部委託費の軽減といった定量的効果だけではなく、最新情報を共有することによる品質の向上、効率化の効果が大きいこと。
(2) 運用時における最新情報を日常情報として共用空間データに追加管理するなどの工夫が必要であること。
(3) 建築申請等に付与される形状属性の異動情報を活用することによって、共用空間データの更新が効率的に行えること。
また、広域運用検討では、広域における共用空間データの運用について、岐阜県・岐阜市・関市において次の実証実験を行った。 ㈰隣り合う市町村間における共用空間データの項目別の比較実験を行った。 ㈪県-市町村間で開発行為における共用空間データの更新実験を行った ㈫その他標高データの検証のため既存データ、画像データ、新規データ取得方法の検討を行った。 その結果、次の(1)から(3)に記載する検証結果が得られた。 (1)隣り合う市町村間において、作成時に基準点の共用を行うことにより共用空間データの地物は相当高い正確度で一致すること。 (2)県-市町村間の役割分担に応じた整備により整備コストは大幅に削減すること。 (3)地物間の接合や整合を容易にするための応用スキーマの検討が必要であること。 (4)広域運用時には、共用空間データの運用、防災等の広域業務との調整、統合型GISの運用ルールが必要であること。また、広域における人材育成が必要であること。

このように統合型GISを整備運用するための課題について調査研究がおこなわれた。この調査研究には、重要なテーマが含まれているので、それぞれのテーマについて次回以降に議論することとする。

個別GISから統合型GISへ

 

2. 統合型GISの目指すもの

統合型GISとは、地方自治体が業務遂行のために作成している地形図、主題図の空間データを活用して、必要な品質の保証された空間データを安価に構築し、GISシステムにとらわれず、庁内の職員及び研究機関、市民等が誰でも、利活用できることを目的としたものである。

 

2.1. 共用空間データ

従来の地図は、取得する道路、建物、河川等の地物を法令等で規定し、これを厳格に守ることが義務付けられている。統合型では、提供する地物を法令等では規定していない。要はユーザが提供された地物に対して満足するか否かである。統合型GISでは、ユーザの利用頻度によって共用空間データと個別空間データに分類している。
筆者は、共用空間データを次のように考えている。
共用空間データとは、道路、建物、河川等の地物の中からユーザが利用する頻度の高い地物を指す。利用頻度の低いが、特定の組織又は個人が利用する地物を個別空間データとしている。共用空間データの地物は、固定的なものではなく、ユーザの使用頻度の高いものを選択すれば良い。なぜなら、空間データは利用者のためにあるものである。従って、利用頻度は、一義的に決めるものではなく、その利用する組織が必要とするものが整備されていることが重要である。
しかし、政府が1999年に発表した空間データ基盤及びその後、国土地理院が整備している空間データ基盤の整備地物を見ると、筆者の意見とは異なるようである。そこで、これについては、次回以降に項を改めて述べることとする。

 

2.2. 品質

日本人が地図を作り始めて、100年以上を経ているが、今更、なぜ地図生産における品質に関する議論をしなければならないのか。地図製作にかかわっていない人々にとっては不思議に思われるのではないだろうか。筆者も、1996年に測量会社にお世話になるまでは、品質についてはすでに解決済みであり、メガバイトクラスのデータの品質管理を行っている技術に畏敬の念を持っていた。ところが入ってみると、びっくりしたことがある。地図は芸術品であり、必ずしも現況を忠実に反映したものではないという考え方が、かなりいたという事実である。その1例として、今でも引き継いでいる描画方法で、等高線がほぼ等幅で書かれているところに残っている。等幅ということは、山の傾斜が同じということである。そのような山はあまりないのではないか。また、この業界の著名な方から、道路内に建物が交差して入っているのは、精度的に悪いのではなく、芸術品として醜いからであると聞かされた。私もしつこいもので、“では、道路と、宅地の境界がはっきりしていないところはたくさんある。本当に道路敷地内に入っている家屋はどのように表現するのか。“と食い下がった。その答えは、“地図はそういうものではない。”ということであったが、私の心の中ではこの議論はまだ終わっていない。そう言えば、今はだれも言わないが、1960年代に、上司からお前の設計図の線は死んでいると、よく怒られたことを思いだした。しかし、1970年代ではそのようなことが言われなくなった。このような歴史的背景をもつ地図製作で一般産業界における品質管理手法を導入し定着させることは、大変であると感じたものである。余談はこのくらいにして。
従来の公共測量作業規程による品質管理は、プロセス管理による方法で空間データを生産してきたが、JPGISの制定に伴いプロダクト管理も追加された。
プロセス管理は、作業ごとに点検を行い、品質を管理する方法である。また、プロダクト管理は、最終製品が品質要求に適合しているかを検査する方法である。産業界でも、生産過程において作業ごとに抜取検査を行い、最終検査でプロダクト検査を行って出荷することが一般的である。プロダクト管理を行ったからと言って、プロセス管理を行わないで良いというものではない。もし仮に、最終検査で不合格になった場合の原因を追究する場合に各プロセスのデータがあれば、生産者自身にとって、どこで不合格となる原因が生じているかが容易に求めることができる。従って、プロセスごとの検査は、顧客のためではなく、生産者自身とって重要なデータのはずである。
JPGISは、完全性、論一貫性、主題正確度、位置正確度、時間正確度等に対して、全数又は抜取検査を行って、品質要件に対して適合しているか否かを数値で明記することになっている。これは、従来、検査の内容を明記せず、検査結果にただ“品質検査合格”という1枚の紙を提出していた方法と比較して、製造物として当たり前のことがようやく条件として仕様書に盛り込まれたと思っている。

 

2.3. データ相互運用(Interoperability)

これまで、空間データのデータフォーマットは、GISシステムに従属していたため、他のGISシステムとは互換性がほとんどなかった。このため、ユーザは業務ごとに最適なGISシステムを選択した場合に、別のシステムにあるデータを簡単に使うことが出来なかった。GISシステム導入に当たり、データ相互運用の機能を条件とすることによって、ユーザは空間データの重複投資を技術的な面から解放されることとなった。但し、GISベンダーがどのようなフォーマットに対しても対応するためには、多額な投資を必要とすることから、出来るだけ標準か、デファクトスタンダードのフォーマットで整備しておくことが望ましい。いずれにしても、これでようやくユーザは自由なGISシステムの選択権を得ることができるようになった意味は大きい。統合型GISは、個別業務GISとの関係において、この技術を前提にして成り立っていることを忘れてはならない。従って、個別業務GISのデータを統合型GISにスムーズに渡せるようにしておく必要がある。

 

次回は、政府の怒涛のように始まった統合型GISを実現するために施策について述べる。

個別GISから統合型GISへ

 

1. 統合型GISの経緯

1995年阪神・淡路大震災が発生し、被害状況の把握、復興計画に地理情報システムの活用が強く叫ばれた。このような状況から、地理情報システム学会は、「空間データの社会基盤整備に関する提言書」を発表した。
しかし、学会の活動では、この提言の内容の実現を政府、自治体、各機関に求める活動や、国土空間データ基盤情報の一般への活用によって産業経済の振興をはかるに限界がある。そこで、民間活動として1995年に国土空間データ基盤推進協議会(NSDIPA)を設立した。そして、NSDIPAは、内部に専門委員会を設けて、政府に対して統合型GIS(但し、この当時はまだ統合型という言葉は使われていない)実現のための支援を行うこととなった。

 

ちょっと、ここで、統合型GISの命名のいきさつについて・・・・・

1998年の「地方公共団体業務に係る各種地理情報システム(GIS)の相互利用に関する調査研究」の会議の中で、今回の地理情報システムの名称を決めようと言うことになった。
一部の意見では、当時、盛んに叫ばれていた全庁システムを押す人もあり、議論百出して決まらなかった。そんな時に、この調査研究の座長である伊理 正夫 中央大学教授(当時)は“今回のシステムは、単に庁内に係らず、大学、研究機関、民間への配信することを考えれば、統合型GISというのはどうだろうか。
”というご発言により、決まった。また、国土空間データ基盤の名称を統合型GISでは、共用空間データと呼ぶこととなった。

 

1.1. 国土空間データ基盤の整備を必要とする背景

これまで地図は、資産税、道路、下水道、防災、都市計画等業務等を遂行するための計画、維持管理のために作成してきた。
すなわち、それぞれの業務に必要な地物を作成し、その業務が円滑に遂行することを目的としてきた。地図作成の目的が業務遂行のためのである限り、他部門のデータとの整合性が最優先ではなく、業務を遂行するために必要な整備をしてきた。
このため、資産税ワールド、道路ワールド、下水ワールド、都市計画ワールド、防災ワールドが庁内で林立することになり、それぞれの主題図にある同一の地物が必ずしも一致していないという現象が随所に発生することとなった。
しかし、業務遂行のための目的図は、必ずしも汎用的ではない。このため、地図に多額な投資をして整備していながら、自治体が民間地図の最大の顧客になっているという妙な現象が起きていた。
また、各部門が企画するGIS導入は、億単位の投資を必要とすることとなり、財政的負担からGIS導入に踏み切れない面がでてきた。
一方、阪神・淡路大震災を契機として、災害時の被害把握、支援、復興計画にGISの活用が有効であることがわかった。
特に災害時においては、関係する人々が同じ情報を見て、判断し解決を図ることが重要であるという共通認識ができつつあった。

 

1.2. 地図の整備方法

地図は地形図と主題図に分類できる。地形図とは、地形を示す道路、建物、鉄道、河川、等高線、基準点等の地物を記載したものを指す。また、主題図は地形図を背景として特定の目的のための地物、規制等を記載したもので、代表的なものとして都市計画図、道路台帳付図、森林基本図等がある。

(1)地形図作成部門
縮尺1/1,000までを大縮尺、1/2,500,1/5,000を中縮尺、1/10,000以上を小縮尺とすると、市町村は、主として大中縮尺を作成している。但し市町村は、市町村の全域を見やすくするため、1枚又は、数枚にまとめた小縮尺を作成している場合がある。国土地理院は一部の例外を除いて小縮尺を作成している。

(2)主題図作成部門
主題図は、主題のテーマが事業の実施部門である場合には、大中縮尺を作成し、それ以外の場合には、中小縮尺で作成している。従って、国道の国直轄区域の道路台帳は、国が整備し、都道府県が管理している区域は都道府県が整備している。また、森林地域の地図整備も国有林、県有林によってそれぞれの管理主体が主題図を整備している。このため、大縮尺で面的に整備しているのは、市町村がほとんどである。国及び県は、特定の地域、又は区域のみを整備していることになる。
このことは広域の空間データを整備する場合に重要な情報である。なぜなら、国及び県がデータ整備行う場合は、整備する領域のわずかしかないのに対して、市町村の集合体が持っている領域は、大半を占めているという事実を認識する必要がある。すなわち空間データの整備は、市町村がその管轄する領域のほとんど全ての地形に関する空間データを整備し、その領域に対して県や国が島状や線状の特定の主題のための空間データを整備しているのが実態である。(もちろん、島状や線状の領域に含まれる地形に関する空間データも作成しているが)このため、国や県が島状や線状以外の状況を把握しようとする場合に、国は県に、県は市町村に、“大縮尺の地形図又は主題図を作成していついつまでに提出しなさい”と指示して提出させている。

(3)地図の管理方法
市町村や県等でも、各部門が必要に応じて主題図を作成して、各部門が独自に管理しているため、他部門から見て、どこに何があるか全く分からなくなっている。そのような状況の中で、それぞれの部門が、個別GISの導入しようとすると、その部門の地形図を含めたデータが古い又は、精度が出ていない等、目的に合わないとの理由から、再整備を行っている。このことも重複投資となっている。

 

1.3. 個別GISの課題

個別GISには次の課題がある。

(1)重複投資
市町村における個別業務GISは、導入が進んでいるが次のような問題が起きている。道路業務GISでは、毎年、道路の新設、拡幅等の更新を行っている。また、固定資産税では毎年、あるいは3年ごとに家屋及び筆界の更新を行っている。そして地形図の更新は、都市計画の更新に合わせて5年ごとに行われている。しかし、地形図の更新に、道路台帳のデータ、家屋図のデータを利用することは、ほとんど行われていない。

(2)データが更新されていない
道路台帳では、道路より奥行き20Mまで記載することになっている。しかし、道路が拡幅又は、改良工事がされても、奥行き20Mまでの建物や塀、管理外の地物が更新されることはない。道路区域外の地物が必要でないなら、最初から経費の無駄であるから道路台帳に記載しない方が良い。しかし、必要なら、きちっと更新すべきである。

(3)重ねて合わない
主題図の作成は、その領域の主題図がない場合には、新規に作成するが、ある場合には、主題図の更新を行っている。 新規で作成した場合の問題点は、公共測量作業規程にしたがって精度の点検を行っている。しかし、点検の書類上では合格であるが、重ねて見ると、作業規程の位置正確度に適合していないことがしばしば起きている。 更新は、このような図面に対して整合性を保つように作るので、複数の主題図を重ねて合わないことは当然である。しかし、地形図、道路台帳、下水道台帳が重ねて合わないので、GISを整備するに当たり、これらをまとめて再整備ということが市町村で多発している。

(4)データの単位が図郭単位
この当時のGISのデータの単位は、図郭単位であった。このため、データは、図郭を跨る建物や、規制線が存在する。複数の図郭の集計や名寄せを行った場合には、本来1個のものが複数個として検出されてくる。

 

1.4. 空間データの品質

当時の品質の状態を示す事例を紹介する。
2003〜2005年度にかけて、岐阜県では、全国に先駆けて、県域統合型GISを整備するため、県市町村でDMデータがある市町村から大手測量会社と地元測量会社でコンソーシアムを組んで頂いてDMデータを変換して共用空間データ(岐阜県では、共有空間データと呼ぶ)の整備が始まった。
県では、納品検査を行うため、第三者機関の検査方法について実態調査を行った。
調査の結果、完全性、主題正確度、論理一貫性の位相検査は目視検査、位置正確度は点検のみ、論理一貫性の位相検査以外のみがプログラム検査を実施していた。このため筆者が、目視検査を出来るだけ排除し、検査した記録が自動記録する品質検査プログラムを開発した。
最初の位相一貫性の交差の閾値は、30cm、全数検査で適合水準0.14%であったが、3回の検査不合格を経て、どうしてもその範囲に入らないので、閾値を75cmに変更、エラーリストを提供し、それに基づき修正していただき、修正に1年以上もかかり、ようやく2004年度末に合格した経緯がある。なお、現在の更新作業では、閾値を10cmで更新している。当時の空間データの生産技術及び品質の一端をうかがうことができる。

全庁システム

1. 時代の技術的背景
1990年代後半に入ってGISを取巻く技術的環境は大きく変わろうとしていた。その主な項目に次のものが上げられる。
(1)CPUの性能向上と低下価格化
従来の汎用大型機、ミニコンによるシステムが完全に姿を消して、UNIXベースのエンジニアリングワークステーション(EWS)が主流となってきた。更に2000年代にはコンピュータの飛躍的性能向上によりGISもEWSからパソコンベースとなっていく。また、GISシステムの基本ソフトも徐々に下がり2000年頃には100万円以下になった。筆者は、1979年から1995年までIntergraph社の日本におけるCAD,GISのディストリビュータとして従事していたが、80年代と95年代を比較すると、システムの販売単価が4分の1程度となったことを記憶している。
(2)GISのための特殊機能
GISのハードで重要な要素は、レスポンスと表示能力である。GISのように大量のデータから高速に必要なデータの抽出、処理、表示することができるEWSやパソコンは、まだ存在していない。このため、市域全体を抽出、処理するにはレスポンスに時間がかかりすぎるので、図郭単位にハンドリングするようになっている。但し、唯一の例外は、世界のGIS市場をESRI社と二分するIntergraph社のGISである。Intergraph社は1970年代後半にDISK上のデータを高速に検索・抽出するファイルプロセッサーを開発と、グラフィックワークステーションに、表示を効率的に行うグラフィックプロセッサーを開発してレスポンス向上と表示スピードの向上を図っていた。高速なグラフィック機能は、2000年以降に汎用化する。
(3)データ相互運用の流れ GIS先進国のアメリカでも、空間データは、政府機関の中で異なったフォーマットで作られていた。そして、その空間データは、特定のGISでないと読む込むことができなかった。すなわち、Aというフォーマットで作られている空間データは、X社のMというGISソフトでなければ、他社では変換なしでは使えなかった。しかも、この変換は全ての空間データを完全に変換することができなかった。そのための時間とコストは莫大なものとなっていた。このような状況で米軍工兵隊は、異機種のGISデータを変換なしに直接読み込みハンドリング出来るGRASSというGISを開発した。この技術をGISベンダーに技術移転するために1994年にアメリカで、Open GIS Consortiumが設立された。 この技術によって、異なるGISソフトのフォーマットで作られ
たデータを読み書きできるデータ相互運用のGISソフトの提供は、2000年以降にGISベンダーから販売されることとなる。
(4)ISO/TC211
1994年に地理情報標準をISO/TC211で討議が開始され、それらの決議の基づき、日本では1999年に地理情報標準第1版がリリースされた。特に空間データの品質は、公共測量作業規程によって各作業段階において品質を検査するプロセス管理を規定しているが、最終納品物の品質が品質要件を満たしているか否かを検査する品質検査規定が盛り込まれた。

2. 全庁システムの出現
自治体は金額が高くてUISⅡの導入は難しいが、しかし、道路台帳、固定資産、都市計画等の業務等の個別業務のGIS化のニーズに高いものがあった。そこで、株式会社パスコは、1993年頃からUISⅡの特徴である空間データを庁内が共通的に使えるようにする“全庁システム”の検討を開始した。
しかし、UISⅡのように複数の部門が共通的に空間データを整備・活用するには、主な課題として次のようなものがあった。
① 住所の字コード、大字コードが部門で異なっていたので統一する必要がある。
② 土地分類の分類コードが都市計画と固定資産では異なっているので、統一する必要がある。
③ 公共測量作業規程では、地形図の作成にDMフォーマットが規定されている。生産過程でデジタル化されているが、最終出力では、紙図が納品されている。従って、地形図をGIS化するためには、紙図を改めてデジタイズする作業が必要となり、二重投資を行っている。従って、DMデータを納品物とし、このDMデータを自動変換でGISデータを作成することによって経費の削減を図る必要がある。また、DMデータをGISデータに無駄なく変換するためにはDMデータの空間属性(地物をポリゴン、ライン、ポイントのいずれで作成するかを定義すること)を詳細に決めて、仕様書に記載する必要がある。
そして、株式会社パスコは、これらの課題を解決して1995年頃からセールス展開した。このアプローチは、自治体、他の測量企業にも大きな影響を与え、空間データのフォーマットを統一して庁内の部門が使えるようにする“全庁システム”が脚光浴びるようになった。その結果、他の測量企業も追従して全庁システムを販売した。このような全庁システム導入した自治体には、横須賀市、掛川市、市川市、岡山市、いわき市、豊中市、鈴鹿市、浦安市、新潟市、松山市、橿原市、大垣市等がある。

3. 全庁システムの限界
個々の地物の仕様が部門間で異なっているものを共通化し、庁内が共通的に使える仕様したことは、その後のGISの発展に大きく寄与するものである。全庁システムは、最初に全庁を統合する共通仕様を作成して、それに基づいて個々の個別業務システムを導入すれば、庁内を空間データが自由に流通でき空間データの二重投資が避けられるという考え方である。従って、UISⅡで問題となった膨大な初期整備費の投資、二重投資も回避できという点で自治体に大きなメリットを感じさせることができた。しかし、全庁システムの大きな欠点は、次の通りである。

3.1. 相互運用

自治体の個別GISの機種選定は、GIS機能、データの品質、メンテナンス・サポート、システム全体の金額、メーカーの信頼性、企業の積極性等総合的に判断すべきものである。機種を選定する場合に、A業務を行うには、X社のものが良く、B業務を行うにはY社のものが良いということは往々にしてありうる。従って、特定の企業のGISシステムが全ての個別業務に優れているとは限らない。それぞれのGISが固有の空間データフォーマットで動作している現状を考えると、1業務の機種選定が庁内の全てのGISシステムを選定してしまう方法は、ユーザである自治体にとって望ましい提案とは考えられない。自治体がそれぞれの個別業務に最適なGISを自由に選定し、そのことが全庁システムとなるまでには、各社のGISシステムがOpen GIS Consortiumが提唱するデータ相互運用の機能を搭載することを待つことになる。それには、今しばらく時間を必要としている。


3.2. データのコスト削減
筆者は、1996年1月に縁あってアジア航測株式会社に入社し、GISセンター長を仰せつかった。そこで、一斉を風靡していた全庁システムの固定資産、都市計画、道路、下水道の個別GISを作ることになった。念頭に置いたのは、いかにして自治体の導入経費、運用経費のコストを削減するシステムを設計することであった。コスト削減するためには、各業務のアプリケーションではパッケージ化することであり、データの整備費では重複投資をなくすることである。アプリケーションのパッケージ化には、社内から猛烈な反対意見“我々はお客様の希望するものを提供するのであって、お客の欲していないものを押しつける商売はできない”という強い反対意見を何とか説得して、7自治体の業務分析を行い、その機能を決めた。
個別業務ごとのデータの課題は、次のものがある。
① 主題図によって更新の時期、サイクルが異なる。
② 最新データがどこにあるかわからない。
③ 転記によって精度が異なってくるので重ねて合わない。
④ データの作成は業務ごとに作成するので、部門間で重複投資している。

重複度の構成比率

主題図数 地物数 比率
40回以上 5 1.04%
35〜39 10 2.07%
30〜34 26 5.38%
25〜29 29 6.00%
20〜24 30 6.21%
15〜19 104 21.53%
10〜14 75 15.53%
5〜9 57 11.80%
1〜4 99 20.50%
0 48 9.94%
合計 483 100.0%

部門別重複度

引用回数 地物数 比率
5部門重複 99 20.50%
4部門重複 81 16.77%
3部門重複 114 23.60%
2部門重複 42 8.70%
1部門重複 99 20.50%
他部門が引用しない 48 9.90%
合計 483 100.00%

そこで、データについては、全国の16自治体の主要5業務で作成している道路管理10種、固定資産14種、都市計画22種、下水道6種、上水道2種の合計54主題図を調査して、公共測量作業規程に定められている地形の地物483種の重複の度合いを調査した。この結果を1997年の地理情報システム学会の学術研究発表会で発表した。
他部門又は、他の主題図で使われない地物は、わずか48地物で全体の9.94%で、90%は利用されていることがわかった。従って、最も重要なことは、この重複している地物を重複整備しない方法で整備運用することである。
全庁システムでは、データの整備は、従来通り単に地形図を整備して、各業務で使う程度にしか検討していない。従って、データの課題は解決していない。
データの重複投資を行わないために庁内のどこかに、全ての整合性のとれたデータを格納して、そのデータを更新、利活用することが考えられる。このような統合型の考えは、次の時代までまたなければならない。

次回は統合型GISへの歩み(3)として統合型の経緯について述べる。