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アイサンテクノロジーからのお知らせ

1.はじめに

2016年熊本地震に伴う三角点等の復旧測量は、本特集でもご報告しましたとおり進んでいます。これらの改正データを基に、14条地図の修正や地積測量図の作成が行われます。今回は、過去の地震の復旧測量を参考に、熊本地震に伴う地積測量図の作成等に関する見通しを述べたいと思います。

2.地震発生後の不動産登記相談

地震発生時は、命をまもることが最優先であり、次に優先されるのは就寝場所の確保です。こうしたことが一段落すると、地震による地殻変動によって移動した土地の境界が大きな関心事になります。

図1は、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震後の登記相談件数を示したものです(震災から復興への記録:兵庫会1998・1、69頁より)。4月頃から、登記相談件数が増えている様子がみて取れます。この傾向は、2011年東北地方太平洋沖地震時も同様と聞いております。従いまして、地震発生から3か月余り過ぎた現在、熊本でもこうした傾向にあるのではないでしょうか。

地震発生後の登記相談件数

図1 地震発生後の登記相談件数
出典:震災から復興への記録:兵庫会1998/1、69頁

3.地殻変動に伴う登記の取り扱い

地震に伴う地殻変動に対応した登記の取り扱いは、下記に示されています。この内容は、東日本大震災にも引き継がれていますので、今回の熊本地震の地殻変動にも適用されるのではないでしょうか。

兵庫県南部地震による土地の水平地殻変動と登記の取り扱いにいて

地震による地殻の変動に伴い広範囲にわたって地表面は水平移動した場合には、土地の筆界も相対的に移動したものとして取り扱う。
なお、局部的な地表面の土地の移動(崖崩れ等)の場合には、土地の筆界は移動しないものとして取り扱う。

(平成7年3月29日付け法務省民三第2589号民事局長回答)

図2は、1995(平成7年)年兵庫県南部地震の地殻変動です。内陸部で起きた地震のため、地殻変動は不規則となっています。地殻変動が一様でない場合、上記の民事三課の回答は、適用できず復興にあたっては様々な事例に遭遇したようで、その様子は、下記の2文献に記録されています。

●兵庫県土地家屋調査士会(平成10年)震災から復興への記録
●土地家屋調査士会近畿ブロック協議会(平成8年)震災地不動産表示登記報告会

1995(平成7)年に発生した兵庫県南部地震の地殻変動

図2 1995(平成7)年に発生した兵庫県南部地震の地殻変動
国土地理院提供の資料を当社技術顧問 中根勝見が計算し直したもの

次に地殻変動に伴う登記の実際を見てみたいと思います。

3.1 明治27(1891)年濃尾地震

図3は、明治27(1891)年濃尾地震(M=8.0)直前に作成された公図です。地番32や31の筆界は直線となっています。地震により横ずれ断層が発生し、図4に示すように直線であった筆界のずれが茶列のクランク状の曲がりとして確認できます。

明治27(1891) 年濃尾地震直前に作成された公図

図3 明治27(1891) 年濃尾地震直前に作成された公図
出典:岐阜地方法務局北方出張所

地震断層により曲がった茶列

図4 地震断層により曲がった茶列
出典:本巣市教育委員会「濃尾地震と根尾谷断層」

図5は、国土調査により作成された地籍図で、2005年に不動産登記法第14条第1項地図として、岐阜地方法務局北方出張所に備え付けられたものです。地震により移動した現況の筆界がそのまま登記されています。
今回の熊本地震においても、地震の横ずれ断層により、図5と同様に筆界に移動の生じた場所がありますが、筆界は、移動した現況で登記されるのではないでしょうか。

地籍調査により2005年6月登記(法14条第1項地図)

図5 地籍調査により2005年6月登記(法14条第1項地図)
出典:岐阜地方法務局北方出張所

3.2 2003年十勝沖地震

図6は、2003年十勝沖地震(M=8.0)の地殻変動の様子を示しています。震源が陸から離れた場所であり、陸地の地殻変動は、比較的一様なものとなっています。こうした地域は、PatchJGDによる座標補正が有効です。ちなみに、地震前の座標を地震後の座標に補正するPatchJGDは、この十勝沖地震の測量成果改正のため、国土地理院により開発されたものです。

2003年十勝沖地震の地殻変動

図6 2003年十勝沖地震の地殻変動
(出典:国土地理院ウェブサイト)

3.3 2011年東北地方太平洋沖地震

2011年東北地方太平洋沖地震において、図7に示すように測量成果改正が行われました。

2011年東北地方太平洋沖地震における測量成果改正

図7 2011年東北地方太平洋沖地震における測量成果改正
(出典:国土地理院ウェブサイト)

測量成果停止中及び公表後の地積測量図作成に関する法務省民事局民事第二課長通知を以下に示します。

1.測量成果停止中の基本三角点等の扱い

測量成果停止中の地積測量図作成に関する法務省民事局民事第二課の通知は次のとおりです。

法務省民二第695号 平成23年3月18日
法務省民事局民事第二課長

平成23年東北地方太平洋沖地震に伴い基準点測量成果の公表が停止された地域 における地積測量図の作成等に関する留意点について(通知)

①成果公表停止地域:第77条第2項に該当するものとして,近傍の恒久的地物に基づく測量の成果として取り扱う。
②地震前の測量成果による筆界点の座標値の取扱い 提出された地積測量図に記録された筆界点の座標値が地震前の測量成果に基づくものである場合には,地震後に,その成果について,点検が行われ,その点検結果において相対的位置に変動がない(公差の範囲内)と確認されたときは,その旨が,規則第93条ただし書に規定する土地家屋調査士又は土地家屋調査士法人が作成した不動産に係る調査に関する報告に記録されていることが必要となる。

2.測量成果公表後の基本三角点等の扱い

測量成果公表後の地積測量図作成に関する法務省民事局民事第二課の通知は次のとおりです。

法務省民二第2775号 平成23年11月17日
法務省民事局民事第二課長

東日本大震災に伴う地殻変動により停止されていた基準点測量成果の再測量後の 成果が公表されたことに伴う地積測量図の作成等における留意点について(通知)

基本三角点等について,その管理者が再測量又はパラメータ変換を行っていない 場合に,申請代理人である土地家屋調査士が自らパラメータ変換を行い,それを地積測量図に記録したときは,管理者がパラメータ変換を行ったものに準じた取扱いとする。

3.3 熊本地震の公共測量の改正及び地積測量図作成

熊本地震後測量成果の公表が停止されました。その後、電子基準点改定成果が公表されましたので、1、2級基準点の改測は、可能になりました。現在、国土地理院は、図8に示す地域の改測を行っています。この改測が終わると、PatchJGDの座標補正パラメータが公表されます。公共測量並びに法第14条地図及び地積測量図などは、PatchJGDによる成果改正が行われることになるでしょう。

PatchJGDによる測量成果改正で考慮すべきところは、液状化や断層近傍等に生じる不規則地殻変動でないことを確かめることです。おおよその目安としては、図8に示すの地域となります。すなわち、の地域は断層に近い地域で不規則な地殻変動が生じています。の地域は、比較的一様な地殻変動が推定され、PatchJGDが使えそうなところといえます。

直接測量による改定▲▲463点、パラメータによる改定3,706点

図8 直接測量による改定463点、パラメータによる改定3,706点
水準路線1,036km(出典:国土地理院ウェブサイト)

なお、国土地理院がPatchJGDの座標補正パラメータを公表した後、弊社は、PatchJGDによる誤差推定可能な図を公表します。図9は、2008年岩手・宮城内陸地震時のPatchJGDによる座標補正誤差を推定したものです。おおよそ、赤色の地域においては、PatcJGDを使った座標補正は慎重に行う必要があります。

PatchJGDによる座標補正の信頼度

図9 PatchJGDによる座標補正の信頼度
国土地理院公表の座標補正パラメータを使用して当社が図化したもの

2016年8月1日

文責 技術顧問 中根