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アイサンテクノロジーからのお知らせ

はじめに

平成28年熊本地震におきまして、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、この震災により犠牲となられた方々とご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げます。被災地におきましては、懸命な救助活動と震災対策に尽力されている皆様に敬意を表しますとともに、当社グループといたしましては、お客様が被災された場合のサポート体制を整えており、少しでもお役に立てるよう努力する所存にございます。

今回は、熊本地震の復旧測量計画の公表を受けまして、基準点成果の復旧、特にPatchJGDの適用について解説を行いたいと思います。

熊本地震の復旧測量計画

国土地理院が2016年4月16日、平成28年熊本地震に伴う基準点成果の公表停止を行ったことについて<解説-1>にて説明いたしましたが、公表停止された基準点成果のうち電子基準点38点について、地震から約1か月後の5月19日と6月16日に改定された成果が公表されました(図1)。

熊本地震で成果が改定された電子基準点

図1 熊本地震で成果が改定された電子基準点(出典:国土地理院ウェブサイト)
5月19日成果公表 6月16日成果公表

これで電子基準点に基づく測量は、通常どおり実施することが可能となりましたので、続いて、測量法第31条に基づく残りの基準点成果の復旧作業が実施されます。

国土地理院は5月31日に熊本地震の復旧測量の指針として、成果を停止している基準点について8月末を目途に改定し、座標補正パラメータを提供する旨を発表しました(図2)。それによると、三角点4,169点のうち、改測は463点について行い、残りの89%の点については座標補正パラメータによる改算を行うことになっています。

熊本地震の復旧測量の実施範囲及び補正パラメータの提供範囲

図2 熊本地震の復旧測量の実施範囲及び補正パラメータの提供範囲(出典:国土地理院ウェブサイト)
が直接観測を実施する点

基準点成果の復旧については、「公共測量成果改定マニュアル(平成26年5月)」に、公共測量の基準点の4通りの復旧方法が示されています。

  1. 改測
  2. 部分改測と独自パラメータによる方法
  3. PatchJGDによる改算
  4. 旧観測値を利用した改算

規模の大きい地震による復旧測量において、全面改測は大きな手間と経費を必要とします。そこで、旧観測値を使った改算又は一部改測とその成果に基づく内挿による改算が行われてきました。

2003(平成15)年十勝沖地震の震源は、陸地から遠く離れた沖であったことから、陸地の地殻変動は比較的一様なものであると推定され、クリギング法による座標補正ソフトウェア「PatchJGD(パッチ・ジェイジーディー)」が開発されました。PatchJGDは座標補正パラメータと共に国土地理院により公表されており、地震前の座標を地震後の座標へ補正するツールとして、その後発生した地震による測量成果の修正に使われています。

PatchJGD座標補正パラメータの信頼度

PatchJGDは、地殻変動が一様な場であることが前提で成り立つもので、不規則な地殻変動が発生している地域や、液状化やがけ崩れなどの局所的変動に対応できません。その座標補正パラメータの信頼度について、PatchJGDによる改算が適用された過去の地震を例にとって説明します。

①2003年十勝沖地震

図3は2003年十勝沖地震(マグニチュード8.0)の地殻水平変動図です。震源が海域であったため、陸上の地殻変動は、比較的一様なものになっています。図4は、当社が推定した同地震のPatchJGD座標補正結果の最大剪断歪(測量の角度誤差に相当するもの)の図で、座標補正の信頼性を示したものです。図の赤色の濃い範囲が要注意箇所となりますが、座標補正の誤差は、比較的少ないものになっています。

2003年十勝沖地震に伴う水平変動

図3 2003年十勝沖地震に伴う水平変動
(出典:国土地理院ウェブサイト)

2003年十勝沖地震のPatchJGDの最大剪断歪

図4 2003年十勝沖地震のPatchJGDの最大剪断歪
国土地理院公表のパラメータを使用して当社が作成

②2008年岩手・宮城内陸地震

図5は2008(平成20)年岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2)の水平地殻変動です。震源付近は大きな不規則な地殻変動が発生しているため、改測による復旧測量が行われ、震源から離れた地域に対して、PatchJGDによる座標補正パラメータが公表されました。図6は、当社が推定した補正結果の最大剪断歪の図です。震源に近い場所は濃い赤色を示しており、パラメータ補正の適用には注意が必要です。

図5 2008年岩手・宮城内陸地震に伴う水平変動

図5 2008年岩手・宮城内陸地震に伴う水平変動
(出典:国土地理院ウェブサイト)

図6 2008年岩手・宮城内陸地震のPatchJGDの最大剪断歪

図6 2008年岩手・宮城内陸地震のPatchJGDの最大剪断歪
国土地理院公表のパラメータを使用して当社が作成

③2011年東北地方太平洋沖地震

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)では、公表停止された43,312点の三角点のうち、改測されたのは1,846点、PatchJGDにより改算されたのは41,466点で、実に95%以上の成果が改算により求められました。

図7は2011年東北地方太平洋沖地震の本震による水平地殻変動、図8は当社が推定したPatchJGD座標補正結果の最大剪断歪の図です。濃い赤色を示している範囲が広く、地盤沈下や液状化が発生している地域では、PatchJGDによる座標補正に限界があることを示しています。

図7 2011年東北地方太平洋沖地震に伴う水平変動

図7 2011年東北地方太平洋沖地震に伴う水平変動
(出典:国土地理院ウェブサイト)

図8 2011年東北地方太平洋沖地震のPatchJGDの最大剪断歪

図8 2011年東北地方太平洋沖地震のPatchJGDの最大剪断歪
国土地理院公表のパラメータを使用して当社が作成

独自パラメータソリューションツール 「3D-BMB世界座標取得システム」

PatchJGDを使用した改算による成果の修正は、地殻変動が一様でない地域、地盤沈下や液状化が発生している地域等においては十分な品質が得られない場合があることを述べました。今回の熊本地震についても、<解説-3>で示したように地殻変動による歪みの大きい地域があるため、パラメータによる改算では十分な品質が得られない地域がある可能性があります。その場合は、「一部改測による独自パラメータ法」が適当です。

当社が開発した「3D-BMB世界座標取得システム(以下、3D-BMBという)」は、改測した結果を用いて現場に合った変換パラメータを生成することで精度の高い座標変換を行うことができるソフトウェアであり、2009(平成21)年4月に「建設技術審査証明(測量技術)第2101号」を取得した「BMB世界座標取得システム」を進化させて、標高補正まで対応させたものです。

3D-BMBでは「平行移動」「相似変換(ヘルマート変換)」「アフィン変換」「BMB方式」の4種類の座標変換に対応しており、統計学でよく用いられる指標であるAIC(Akaike's Information Criterion)を用いてそれぞれの変換方式の比較検討し、最適な変換方法を選択することができます。また、補正量についてはベクトル表示により視覚的に分かりやすく表示する機能を有しています。

図9は2011年東北地方太平洋沖地震時の川崎市の公共基準点のデータについて3D-BMBで標高の補正量を求めた画面の一例です。画面右下の大きなベクトルが発生している地域は、液状化が発生し、不規則な地殻変動が起きていることから改測により成果を改正した地域です。

図9 3D-BMB製品画面

図9 3D-BMB製品画面
データは(一社)神奈川県測量設計業協会川崎支部提供

おわりに

日本に住む限り、誰でも何処でも地震被害を考えて暮らさなければなりません。又、場所によっては風水害や津波被害にも注意しなければなりません。そうした被害を軽減するには、ハザードマップを作製しておく必要があるでしょう。最新技術である自動車から周囲の3次元データを取得し防災図を作成するMMS技術の活用等、衛星測位時代の防災技術がおおいに活躍可能な時代になりました。当社は、こうした技術開発にも取り組んでいるところです。