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アイサンテクノロジーからのお知らせ

はじめに

熊本地震による被害が長引く中、このたび発生した熊本県を中心とする地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、被災された皆さまには、心からお見舞い申し上げます。また、早い復興を期待して、過去の地震の教訓などを基に、その復興に欠かせない位置情報に関する課題を報告したいと思います。

(1)なにがなんでも命を守ることが地震災害でまず第1に優先されることです。阪神淡路大震災では、8割の方々が家屋の倒壊による圧死でした。この教訓をもとに家屋等建物の耐震補強が行われるようになりました。

(2)命を守ることに成功した場合の次の課題は、寝場所の確保です。2004年の新潟中越地震では、68人の方々が亡くなられましたが、そのうち52人が車中泊などによる関連死でした。熊本地震の現在の段階は、この2段階目にあたるように見受けられます。

(3)仮説住宅の設置等である程度命の保証が確保されると、住宅や土地の復旧が課題となります。倒壊家屋の整理や家屋の滅失登記などの手続きも必要になります。東日本大震災において、津波などで家屋が流されたような明らかな場合、住民の負担軽減のため、登記官が職権で滅失登記を行なった場合もあるようです。

(4)ある程度落ち着くと、地震で移動した境界の復元などが課題となります。図1は、1995年の阪神淡路大震災時の登記相談です。1月17日の発生から、2か月程を経て、登記相談が増えはじめます。東日本大震災の場合も同様と聞いております。

 

日本列島の地殻変動と位置の評価 図1 1995年1月17日地震発生後の登記関係相談件数

図1 1995年1月17日地震発生後の登記関係相談件数
出典:『震災から復興への記録:兵庫会1998・1』69頁

 

日本列島の地殻変動と位置の評価

今回は、日本列島における地殻変動の関係を考察したいと思います。

図2は、2016年4月1日に国土地理院が公表した「セミ・ダイナミック補正」に用いる「地殻変動補正パラメータ」を使って弊社が作成した水平地殻変動です。累積期間は元期から2016年1月1日までなので、西日本及び北海道は、1997.0~2016.0の19年間の地殻変動量です。2011年東北地方太平洋沖地震地域の1都19県は、2011.4~2016.0の4.6年間です。

 

日本列島の地殻変動と位置の評価 図2 累積地殻変動(期間:元期~2016.0)

図2 累積地殻変動(期間:元期~2016.0)

目立つのは、東北の余効変動です。この4.6年間に1メートル程度の大きさで、定常的地殻変動より約1桁大きな量です。この地域では、衛星測位により得られたリアルタイムの座標は、測量法の位置と1メートル程度異なります。九州地方の累積地殻変動は、1メートル以内です。こうした地殻変動を考慮しない場合、日本列島の位置は、リアルタイムの位置と数10センチメートルから1メートル余り食い違うことになります。

地殻変動補正(セミ・ダイナミック補正)

スタティックGNSS測位は、先述の地殻変動補正パラメータに基づいて、元期の位置に補正されます。国土地理院のマニュアルに基づく公的な「セミ・ダイナミック補正」です。

一方、ネットワーク型RTKは、地殻変動補正も含め、3つの配信事業者により位置決定の仕組みがそれぞれ異なります。

弊社が行った各配信事業者により得られた座標を図3に示します。去る3月下旬に名古屋市内において、早朝9時から夕方6時まで観測した結果です。スタティック測位の結果からの座標差を示しています。水平のX(南北)成分は、A社とC社では5センチメートル余りの食い違いが生じています。Y(東西)成分は±1センチメートル以内ですが、高さ成分は10センチメートル近い食い違いが生じています。今後、引き続き夏場の季節等による影響を調べる実験を行う予定です。

 

日本列島の地殻変動と位置の評価 図3 ネットワーク型RTKの座標比較:スタティック測位結果とのXの座標差
日本列島の地殻変動と位置の評価 図3 ネットワーク型RTKの座標比較:スタティック測位結果とのYの座標差
日本列島の地殻変動と位置の評価 図3 ネットワーク型RTKの座標比較:スタティック測位結果とのZの座標差

図3 ネットワーク型RTKの座標比較:スタティック測位結果との座標差

配信事業者による座標の食い違いは、公的な地殻変動補正パラメータを使うことによってかなり解消されると思いますが、図4に示すような年度末誤差が生じます。

すなわち、国土地理院が公開する公的な「地殻変動補正パラメータ」は、その年度を通じて、1月1日の座標が今期座標として使われます。従いまして、年度末には15箇月前の座標を使うことになり、年度末誤差を生じます。図2に示した東北の余効変動量は年間10センチメートルを超える場合があり、年度末誤差は無視できません。

 

日本列島の地殻変動と位置の評価 図4 「セミ・ダイナミック補正」と「セミ・ダイナミック リダクション」

図4 「セミ・ダイナミック補正」と「セミ・ダイナミック リダクション」

セミ・ダイナミック リダクション

こうした年度末誤差をなくすため、弊社は「セミ・ダイナミック リダクション」を開発しました。図4に示すように、国土地理院が公開している最終解である「F3解」に基づいて、リアルタイムの地殻変動補正を行うものです。

この補正により、精密単独測位(PPP)で得られたリアルタイムの座標を測量法上の元期の座標に化成(リダクション)できます。

【注】国土地理院は、日平均値として迅速解(Q3解)、速報解(R3解)及び最終解(F3解)を公開しています。F3解は、精密歴により得られた正確な座標です。

座標の互換

図5は、場所と時間による位置関係を示したものです。表1に示す3つの公的パラメータが提供されています。

この補正により、精密単独測位(PPP)で得られたリアルタイムの座標を測量法上の元期の座標に化成(リダクション)できます。

【注】国土地理院は、日平均値として迅速解(Q3解)、速報解(R3解)及び最終解(F3解)を公開しています。F3解は、精密歴により得られた正確な座標です。

表1 国土地理院が公開している各種座標互換パラメータ

パラメータ名 目的
プログラム名 期  間 パラメータの大きさ
座標変換パラメータ 目的:日本測地系から世界測地系への座標変換
TKY2JGD 明治~2001年度 400m~450m
座標補正パラメータ 目的:地震前の座標を地震後の座標へ補正
PatchJGD 2003年十勝沖地震~2011年東北地方太平洋沖地震 ~5m
地殻変動補正パラメータ 目的:定常的地殻変動補正(セミ・ダイナミック補正)
SemiDynaEXE 西日本・北海道(元期1997.0~今期2016.0)
東日本・北陸(元期2011.4~今期2016.0)
~1.2m

 

日本列島の地殻変動と位置の評価 図5 座標互換図

図5 座標互換図

すなわち、セミ・ダイナミック リダクションを使えば、一挙に元期の座標に化成できます。準天頂衛星及びガリレオなどの打ち上げにより衛星測位時代が到来すれば、これまでの相対測位でなく、直接座標が得られる単独測位が主流になると思います。セミ・ダイナミック リダクションは欠かせない地殻変動補正手法になると思います。

また、今回の地震域における復旧測量においても、地殻変動の影響を十分考慮した成果を目指す必要があると思います。

地殻ひずみ

地殻変動の影響を測る尺度として図2に示す地殻変動量の他に図6に示す「地殻ひずみ」があります。図6は、先述の国土地理院公開の地殻変動補正パラメータから作成した「最大剪断歪」です。全国的にみて、東北の余効変動域及び九州の火山活動域のひずみが大きく見えます。最大剪断歪2ppmは、角度1秒に相当します。図のように20秒は、1km先で10cmの食い違いが生じる量です。図の赤色の地域は、角度誤差10秒を超える量に相当します。

復旧測量等位置情報に関するご質問がございましたら、ご遠慮なく、弊社ウェブサイトへお問合せください。

災害対策ポリシー支援お問合せ: http://www.aisantec.co.jp/disaster/index.html

 

日本列島の地殻変動と位置の評価 図6 日本列島の水平地殻ひずみ

図6 日本列島の水平地殻ひずみ

2016年4月22日
文責(技術顧問 中根)