本文へ

 

アイサンテクノロジーからのお知らせ

国土地理院は、6月3日及び6月23日の2回にわたって、東北地方太平洋沖地震に関した復旧測量の説明会を東京で行いました。午前の部「基準点測量成果の改定」に資料が載せられています。これらの説明会で報告された公共測量の実施等に関する内容を解説したいと思います。

1.測量成果の改定(元期2011.4)

図-1に示す新潟、長野、山梨、神奈川の各県以北の青森県までの電子基準点の成果は、5月31日公開されました。この東日本の電子基準点座標の元期は、2011年5月24日(2011.4)であると、公表されました。同時に富山、石川、福井、岐阜県の三角点成果が新たに停止になりました。この4県の元期は現在未定ですが、遠くない時期に公表されるでしょう。なお、図-1に示した以外の西日本及び北海道は、従来どおりの「測地成果2000(元期1997.0)」です。

s1.jpgs2.jpg図-1 三角点成果公表停止地域(国土地理院HPより

1-1 基準点成果改定計画(10月末に公開)

図-2は、国土地理院の説明会における「基準点測量成果改定」資料によるものです。三角点及び水準点の成果が公表されるのは、2011年10月末が予定されています。

s3.jpg図-2 基準点成果の改定計画(6月3日国土地理院報告会資料より)

1-2 測量成果公表停止と改測

測量成果公表停止した主な基準点の一覧が、表-1のように示されました。

表-1 測量成果公表停止地域の三角点及び水準点数

種別成果停止基準点数
2011年5月31日現在
全国
電子基準点3/31公表 438点1,240点
三角点総点数43,851点109,074点
一等三角点 253点 975点
二等三角点 21,40点 5,060点
三等三角点 15,168点 32,326点
四等三角点 26,190点 70,713点
水準点総延長3,600km18,239点
一等水準点 989点 14,682点
二等水準点 370点 3,471点
道路水準点 193点  

6月3日国土地理院報告会資料より、全国は筆者による追加

これらの基準点のうち、3月14日に測量成果公表停止地域の三角点は、3.8万点です。このうち約1,900点及び水準点約1,500点が、改測の予定になっています。図-2に示した電子基準点364点及び高度地域基準点584等を既知点として、座標(及び標高)補正パラメータがつくられる予定になっている、とのことです。

2.座標(及び標高)補正パラメータ

これまで国土地理院は、2003年十勝沖地震及び2007年新潟県中越沖地震及び2008年岩手・宮城内陸地震等の復旧測量では、「PatchJGD」座標(及び標高)補正パラメータによる改算を行ってきました。これらは公共測量成果改定マニュアル(2008年4月)に規定されていて、今後ともこのマニュアルが適用されるようです。パラメータは、測量成果の公表と同時に公表されるでしょう。図-1に示した測量成果の公表を停止した地域における、改測が行われない三角点等は、「PatchJGD」による改算が予定されています。

s4.jpg

図-3 格子点(1km×1km)の座標(及び標高)補正パラメータと既知点の間隔(10km)

座標(及び標高)補正パラメータは、電子基準点及び高度地域基準点を既知点として、内挿により決めると報告されています。パラメータの格子点間隔が約1km×1kmに対して、既知点間距離は電子基準点及び高度地域基準点を既知点としているので、約10km程度ですhttp://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/detail/
図-3に示すように、おおよそのところ10kmという大きな目盛りで1kmの目盛りを内挿で決めることになります。内挿によって決められた1kmの目盛りを使って、公共測量及び地籍測量の既知点等の座標が決められます。

s5.jpg

図-4 内挿による標高補正パラメータと実際の上下変動

図-4は、内挿による標高補正パラメータと実際の上下変動の関係のモデル例を示したものです。筆者の経験では、水平変動に比べて上下変動の波長が短い傾向を示しています。地殻変動が一様であると仮定の基にパラメータがつくられています。液状化のような地域では不規則な変動を拾いきれず、パラメータによる改算は誤差の原因となります。液状化のような不規則な変動が生じた地域で、標高補正パラメータによる標高補正計算を行うべきではありません。

2-1 座標(及び標高)補正パラメータの信頼度

測量は“測ってなんぼ”の世界ですが、短期間で今回の被災地域の全三角点の改測は不可能でしょう。非常に少ない改測結果を基にパラメータがつくられますから、その信頼度の判定が課題です。このパラメータ改算の信頼度について考察します。

2003年十勝沖地震の「PatchJGD」座標(及び標高)補正パラメータは、電子基準点80点、高度地域基準点182点及び他17点の計279点からつくられ、約4,200点の一・二・三・四等三角点が改算されました。(2005年国土地理院時報108、5-6頁)。
図-5は、弊社が開発したパラメータの信頼度を推定するもので、パラメータから最大剪断歪を計算して色づけしたものです。最大剪断歪は、角度誤差に相当します。一様な変動の場での最大剪断歪は、極めて小さい値になりますが、不規則な変動及び測量誤差が原因で大きな値になります。おおよそ30ppmを超えた値である赤色の濃い地域が、1級基準点の許される角度誤差に相当していて、慎重な扱いが必要と思います。

s6.jpg図-5 2003年十勝沖地震のPatchJGDパラメータの信頼度

2008年岩手・宮城内陸地震では、電子基準点21 点及び一・二・三・四等三角点等2,610 点の測量成果が停止されました(2008年国土地理院時報117、8頁)。パラメータ作成に必要な高度地域基準点41点が改測されました(同前10頁)。図-6は、2008年岩手・宮城内陸地震における「PatchJGD」座標補正パラメータの信頼度を色別したもので、震源域の西側では赤色が濃くなっています。こうした地域でのパラメータによる改算は慎重を要します。

s7.jpg図-6 2008年岩手・宮城内陸地震のPatchJGDパラメータの信頼度
赤色の濃い地域は要注意

国土地理院がパラメータを公表した後、弊社は図-5及び図-6と同様な図を作成し、その内容を検討して妥当性があれば皆様にご利用いただきたいと思っています。「座標補正/EDX」の名称を予定しています。

2-2 座標(及び標高)補正パラメータによる公共測量等の改算

国土地理院は、“測量成果が公表される以前でも公共測量の作業計画、現地調査、観測作業を行っても、支障はありません。”と述べています。その場合、“三角点、水準点の改定成果が公表された後に、既知点の新しい測量成果を用いて計算・整理をすることとなります。”と述べています。地籍測量についても同様に、C及びD工程は実施できます。

s8.jpg

図-7 測量成果公表前後の作業工程

図-7に示すように、既設基準点を仮基準点として観測作業を行い、閉合差及び較差等の観測値の点検を行います。測量成果が公表された後、既知点座標への座標補正を行い、既知点間の閉合差の良否を判定します。この場合、弊社が提供予定である「座標補正/EDX」は、既知点座標の良否の判定の参考になると思います。

s9.jpg

図-8 WingneoINFINITYのPatchJGD座標補正ツール画面

2-3 座標(及び標高)補正パラメータによる地積測量図の作成

2011年3月18日付け法務省民事局民事第二課長通知によれば、その概要は次の2点です。

(1)基準点測量成果の公表が停止された地域において提出される地積測量図の取扱いは、第77条第2項に該当するものとして、任意座標扱いとする。
(2)国土地理院が成果公表後の取扱については追って連絡する。

国土地理院の測量成果公表予定は、10月末となっています。三角点及び水準点の成果公表と合わせて、座標(及び標高)補正パラメータが公表される予定です。先述の民事二課長通知の②項は、これら補正パラメータによって、不動産登記規則第10条第3項に規定する基本三角点等の座標を改定するのではないでしょうか。既知点として使う予定の基本三角点等の座標の品質評価の参考にするツールが、「座標補正/EDX」です。

3.改測・改算等による公共測量等の実施

国土地理院提供による座標(及び標高)補正パラメータを使った測量成果の改正は、一様な地殻変動が前提となっているので、局所的な液状化地域のような一様でない変動地域では使えません。成果改定として次のような方法があります。

(1)電子基準点を既知点とした1級基準点測量の実施:作業規程の準則第22条に基づいて、電子基準点を既知点とした1級基準点測量は、測量成果公表前でも実施できます。この場合、同準則第43条により、国土地理院が提供する地殻変動補正パラメータを使ってセミ・ダイナミック補正を行う必要があります。
(2)旧観測値による改算等:2002年度の世界測地系導入時に使われた「旧観測値による改算」は、準則第76条4項の規定により実施できます。
(3)地域毎に適した座標補正:計画機関の計画に基づいて国土地理院と相談して実施が可能です。

3-1 地域毎に適した座標補正(試験観測結果)

関東地方のある業者団体は、市が管理する公共基準点の地殻変動状況をGNSS観測によって調査しました。観測点密度は約5kmで、国土地理院のPatchJGDの既知点密度100kmの20倍です。試験観測の結果、液状化が生じた埋め立て地域の地盤沈下量約10センチメートルを観測しました。内陸地域の上下変動はほとんど零でした。

s10.jpg

図-9 市全域の上下変動の傾向(液状化市域で平均10センチメートルの地盤沈下)

上記の試験観測結果の解析を基に、市が管理する公共基準点等の成果改正の提案が行われる予定だそうです。多分、液状化が生じた地域の基準点は、改測による測量成果改定となるでしょう。内陸には電子基準点が1点あるだけですから、既知点密度があまりにも粗くてPatchJGDを使って2,000点近い公共基準点の改正行うことは現実的ではありません。試験観測と同様に既知点密度5km程度とした、市独自の座標補正方法になるかもしれません。この方法は、「測地成果2000導入に伴う公共測量成果座標変換マニュアルに」示された「地域毎に適合した変換パラメータによる座標変換」に規定された「.重み付け補間による方法」で処理できます。国土地理院に相談して技術的助言を得ることによって実施可能でしょう。

3-2 改測指向の測量業者

筆者は東京の調査士から、次のような話をききました。“区内では液状化等なく、基準点に不規則な変動は無いようで、簡単な改算で基準点改定ができると思う。しかし、地元外の測量業者が行政担当に改測を提案した。測量業者としては改測が一番の利益につながるのであろうが、震災時に儲けを優先した営業は、やり過ぎだ。” 筆者は、この他にも行く先々で改測を言い出している測量業者の話を聞いています。何を根拠として改測の提案が行われているのでしょうか?

一方、こうした営業とは全く逆な例は先述した関東地区の試験観測を行った業者団体の例です。又、静岡県のある測量会社は、東海地震等による地元に発生する想定外の災害対応を行うため、仙台平野の津波被害調査を行いました。地元の地形に類似した地域において、海岸線からの距離や標高と被害の関係を、簡易GPS機器で測定して行いました。調査の結果は、行政等への提言として使われるようです。このように、各測量業者は知恵を出し社会貢献を行い、国民からの信頼を得たいところです。なお、有事(地震時)における組織(民間と天下り公益法人)の危機管理もご参照ください。

4.過去の資料の訂正

3月23日弊社HP(下記参照)において「パラメータ」の解説を行いました。国土地理院の説明会で、東日本の元期が2011.4になったことから、測地成果2000を前提としていた座標(及び標高)補正パラメータ並びに地殻変動補正パラメータに関する下記解説を修正します。

「PatchJGD」の座標補正パラメータとセミ・ダイナミック補正の地殻変動補正パラメータの解説
http://www.aisantec.co.jp/ir/informations/eq2011-info/2011/201103000685.html
https://atmsp.aisantec.com/atmspark/modules/ev_f14/index.php?id=36

図-10は、東日本における地殻変動の経過を筆者流に示したものです。

(1)測地成果2000地殻変動補正:1997年1月1日の測地成果2000(元期1997.0)座標から定常的地殻変動が2011年3月11日の地震直前まで継続する(10cm単位)。
(2)地震時の地殻変動:3月11日の地震により大きな地殻変動が生じる(最大水平変動約5m)。
(3)余効変動:地震時から地殻変動が継続する(5月末で最大水平変動約40cm)。
(4)座標補正値:1997年1月1日(1997.0)から2011年5月24日(2011.4)までの座標差。
(5)元期2011.4へのセミ・ダイナミック補正:現在はほとんど零。

s11.jpg

図-10 地殻変動と時間の関係

 

5.日本経緯度原点の改測

zu11.jpg図-11 日本経緯度原点の改測作業
2011年6月23日筆者撮影

東北地方太平洋沖地震による地殻変動の影響は、日本経緯度原点にも及んでいます。改測により原点の座標を改正するとのことです。上空視界を確保するため約15mのタワーを組立て最上部にGNSS測量機のアンテナを設置したものです。 http://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/sokuchikijun60009.html
アンテナがビルにへばり付いています。こうした観測点では、近傍の上空視界の開けた複数点での観測を行い、TSにより相対的位置関係を点検することによって、より確実な成果が得られます。
水準原点にも地殻変動の影響が及んでいて、現在その調査も行われています。やがて、測量法施行令に定められたこれらの原点数値が改正されることになると思います。

おわりに

世界的にみても、今回のような基準点網の破壊は、例をみないものです。この難物の解決は容易ではありません。国土地理院の試行錯誤の場面もあるでしょう。これまで測量法上は「世界測地系」と呼び、学術上は日本測地系2000(Japanese Geodetic Datum2000:JGD2000)と呼んでいました。JGD2000の成果が「測地成果2000」でした。今回の東日本については、元期が2011.4ということが決まっていますが、正式な呼び方は現在のところ未定のようです。今後とも国土地理院からの発表に基づいて、解説を続けていきたいと思います。

2011年6月29日

技術顧問 中根勝見